欲しいものは、一つしかないのに、晃二が言った。 『俺をあげる』 まさに、その一つが、欲しかった。 喜んでいいはずなのに、心臓が痛い。 息を整えなければ、急に動きだす心臓が落ち着かない。 それが。 ただ、那須晃二という人間が。 欲しいだけなのに。 こんな一言…喜んでいいくらいの一言で、おかしなくらい苦しいのは、晃二が本気ではないからなのだろうか。 本気ではないと知りながら、心底求めて止まない人間を与えられて、嬉しく思ってしまうからなのだろうか。 よくはわからない。 晃二の嘘も、本当も、何もかも欲しいと思うから、俺は晃二を押し倒した。 晃二が冗談でもくれるというのなら、貰わないのは勿体ない。 晃二の部屋で少しあけたままのフレグランスが、制服から香る。 移り香は晃二の体臭と交ざっても、不快なものにならず、逆に心地よく思える。 フレグランスとの相性は、ばっちり。 晃二は自分自身をよく知っている。 俺のことも、知っている。けれど、詳しくはないのかもしれない。 押し倒されても伸ばした手で頭を撫でた晃二に、俺がどれだけ安堵するか。 きっと晃二は知らない。 「こうじ」 安堵して、心地よくて、ふわふわして。 思わず笑うと、晃二が目を細める。 「さっちゃんつっこみたいの?」 わざと雰囲気を壊す言葉を使われても、俺の気持ちはかわらない。 晃二がほしい。 否定はしないが、肯定もしなかった。 俺が受け身になる理由は三つある。 一つは、受け身になることで、与えられていると思い込みたいため。 もう一つは、晃二が男で、突っ込まれることをよしとしなかったら、無理にことに及んだ場合、嫌われるだろうから。 最後の一つは、拒否されてしまったら、立ち直れないから。 好かれているのならば、早急でなければどの立場にだってなれたのかもしれない。 けれど、恋愛感情で好かれてはおらず、身体も晃二をつなぐ材料ならば、自然と立場は決まってくる。 俺は、だから、突っ込むなんてできない。 それに、こうして、晃二のものを口のなかにいれ、舐めたり、しごいたりしていると、次第に後ろがもぞもぞし始める。 足りない。欲しい。早く、晃二のが、欲しい。 晃二は俺を調教した。馴らした。 中にいれて、掻き回して、ぐちゃぐちゃにして。 わけが分からなくなさせて。 気持ちいいのは好きだ。 苦しいくらい気持ちいいのも。 まして晃二の与えてくれるものならなおのこと。 晃二のそれを手でなく、真っ先に口に入れるのは、手っ取り早いからというのもあるけれど、舐めたいと思うから。 頬擦りしてしまうのは、欲しくて仕方ないから。 言われなくても足は開くし、腰もふる。 対面に座れば晃二の顔が良く見えるし、俺がやってることで晃二が感じてくれてるのが嬉しい。 上にのるのも同じ理由で嬉しいし、晃二がたまに悪戯してくるのが、おかしくなるけど、すごく、好きで。 だから、こうやって。 後ろから攻められるのは、きらい。 晃二の顔が見えない。 晃二はこんなとき、後ろから抱き締めてなんてくれないし、俺もやることが少なくなる。 ただ、晃二が、いつも以上に動いてくれるのは、好き。 俺のためにしてくれてるって思い込めそうだから。 いつもなら、焦らして、焦らして、どうすればいいかわからないくらい焦らすくせに。 今日に限って、いいところをあててくる。 すぐにいってしまっても、次に焦らしてくるなんてことも、イクのを止めるなんてこともしない。 「…ッ」 首を振っていやだと訴える。 焦らされたほうが。 焦らして、焦らして、焦らされた方が、愛されているような気になれるから。 全部そんなのは、性癖だといって、しまえば、それまで。 だけど、思うだけならいいだろう。 そんな俺を哀れむのは晃二だけでいい。 同情してくれればいい。 それで晃二の傍にいられるなら。 それでいい。 |