伝えようとしなければ伝わらないことは多い。
何も言わなくても察してくれる幼馴染が常にいるわけではない。
それに、察していても、知らないふりができる人だっている。
言葉を音にすることが難しい。
他人の言葉を歌うことは可能だが、それとて、特定の人には聞かせたくない。
伝えることが、億劫に、なる。
「話さない事には解らないこともたくさんあるぞ、さっちゃん」
いつも最初に言葉をくれるのは晃二。
「皐、もちっと単語じゃなくて、繋げて話せよ、わかんねーよ」
思い出させてくれるのは、総長。
でも、音にするのは、難しい。
考えた。
考えていたら、下駄箱に入った手紙を見つけた。
言えないのなら、そうか、書けばいい。
文字は残るから、恥ずかしいと、何度もやめようと思ったし、実際、何度も手紙を破った。
結局ルーズリーフに走り書きして、ヤケクソみたいに、晃二がいない間にバインダーに挟んだ。
走り書きしても、覚えている。
伝えることを難しいと思う
多くを伝えたいと思う
どうして言葉は多いのだろうと思う
多いから迷う
迷うから多いのかもしれない
難しくしようと思って言葉は多いわけじゃない
伝えたいことが多いから多いんだろうと思う
ただひとつ伝えるなら
多くは必要ないかもしれない
ひとつにまとまるくらいなら
難しいと言わない
だから俺は晃二が好きじゃない
そういう、ことを、書いた。
だって、何度も迷って、結局伝わらないのなら。
破り捨てて、なくなってしまえばいいと、思う。
飾って、連ねて、意味がなくなってしまうなら。
意味なんてないと思う。
それでも、好きなんて、一言で終わるくらいなら。
億劫になんてならない。
だから、すきじゃない。
それが、愛だなんて言わない。