雨の日は憂鬱。


日が差さない日曜日、雨の音が聞こえた。
雨だと解るくらいの音だ、土砂降りと言っていいほどの雨量なのだろう。
ベッドの上で、なんとなく思った。
目をあけることはせず、身体の位置だけを動かす。
雨の音だけを認識して手にもった携帯のサイドボタンを押す。
機械的な音で時間を告げる声を聞き、まだ眠れると頑固に目を閉じたまま、もう一度身体を動かす。
手にもったままの携帯が、着信をつげる。
軽快なメロディは、電話の合図だ。
電話を無視することもできず、彼は、ボタンを押す。
「……はい」
電話に出るときは常に声が低い。
起きていようと寝ていようと、第一声は変わらない。
ただ、起き抜けは声が僅か、掠れる。
『やだ、さっちん、エロォーい!』
「……」
起き抜けに聞こえるのは、同室者…といっても、隣の部屋と相違ない男の声だった。
電話をするくらいなら、直接来ればいいのに。
なんとなく思いながらも、耳元で聞こえる声に少し嬉しくなってしまうのは、好感情のなせる業だ。
『今日はー日曜ですが』
「…ん」
それでも、まだ眠い。
言動のわりに落ち着いた低音である男の声に、睡眠を促されているというのもある。
『俺と街にいかない?サツキクン』
「……んー…」
雨なのに。
そう思いながらも、誘ってくれることが嬉しい。
嬉しいと思いながら、眠さに負けそうになっている。
昨夜夜更かししたわけではない。
雨の日は薄暗く、土砂降りで、雨の音がはっきり聞こえるのも、眠たくなる理由のひとつだ。
風はふいていないらしい。
ざーっという音と、雨戸を打つ音、誰かがおいた金物に落ちるしずくの音が、心地いい。
『さーっちーん?もしかしなくても眠い?』
「……」
もはや、返事をしているつもりで、返事すらできていない。
静かに扉が開く音、電話と近くからする声に、意識を手離す。
「『ほんと、さっちゃん、雨の日はおねむねぇ』」
解っていながら電話をかけたのか、意地が悪い。
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