睡眠はおやつに入りますか?


とりあえずアドレスを交換して別れたあと、メールを少しずつゆっくりしていった結果、二人は同じ学校の後輩先輩であることがわかった。
トオルはオーソリティーパーソン学院…通称AP学院高等部、芸術科の絵画コース、一年。
ケイセツはAP学院高等部、特進科文学A、三年。
AP学院はひろい。たとえ同じ学院でもなにか接点かつながりがなければ知り合うことなどない。
学校が同じであっても科が違えば出会うことはなく、その上ケイセツは近くない…通学時間、片道二時間をかけて通学しているし、学校の近くで溜り場や友人宅に泊まる時以外は実家をいったりきたりしているらしく、放課後見かけるのは課題が間に合わないときくらいだ。
しかも、ケイセツは三年。三学期にもなると授業は朝のみ、昼はなし。そして、夏休みの今、受験勉強真っ盛りなケイセツには、特進科強制補習しか用はなく、たまに遊ぶことくらいしかあの町に用はない。
「戸田センパイって…もしかして、御兄弟とかいませんか?」
路地裏で一緒に寝て以来あうこともなかったトオルに尋ねられ、クーラーのほどよくきいた喫茶店でねむたそうにケイセツはこたえた。
「上に一人、下に二人いる」
「……上は傾城、下は尚じゃないですか?」
「知ってるのか。…あと一人は、直幸だ」
「ことごとく、有名人ですか…」
ケイセツの兄、傾城(けいじょう)は学院の特進科の卒業生で、学院内でも外でも有名な有能ぶりと頭の良さをみせつけた。
すぐ下の弟、直幸(なおゆき)は、ケイセツの地元の不良であり、不良高校の裏番長と呼ばれており、さらには不良らしからぬ行動をすることで有名である。
末弟の尚は、規模の大きな全寮生のおぼっちゃま学校に通っていながら、学院の美容・理容コース連中に神様あつかいをされている。
「兄弟が目立ちすぎて、目立たねぇからな、俺は」
「奨学生なのにですか…でも、確かに目立ちすぎてて隠れてる感じですね」
弟と同じように不良で、しかも総長までしており、学院の奨学生ケイセツはそれでも、ある町ではじみだ。
そう、ケイセツとトオルの実家のある町では…。
「地元まで一緒とは思いませんでした。今度泊りに行きます」
そんなことを言いながら席からたったトオルは、伝票とテーブルに置かれた金を手に取った。
「…好きなときにくればいい」
今からケイセツは補講。トオルは出展物の製作に学校に行かなければならなかった。



目立ちに目立つ兄弟のなか、地味なケイセツはそれでも目立つ存在だった。
すぐ下の弟にすれば、ねむたそうだがやさしく、そのくせどっかの族の総長とかかっけー!と言われるケイセツは、万能といわしめた兄に劣らずとも優らず、優秀といわれていい人だった。
成績優秀、運動神経抜群。容姿も常に眠そうだし、派手なところもないが悪くない。
目立っているといってもいい。
しかし、如何せん、他の兄弟が目立つ上に、暇さえあれば寝ている。
髪の色にしても、脱色中に眠り込んでしまい真っ白になり、そのままなのだ。
そして、そんなよく寝る子であるケイセツは、叩き起こしても起きない。
殴っても蹴っても、かなりの痛みを感じないかぎり起きない。
クラスの人間はそれを知っていて、ケイセツが寝ている姿はすでにいやしとまで言われている。
髪を白くした翌日に教師にまで何かショックなことでもあったのか、と聞かれるくらい、皆の癒し系だ。
その癒し系をクラスの皆は独占したいらしく、ケイセツを隠すようにしている。
それもケイセツをじみにしている理由の一つだ。
だが、何よりも彼をじみにしているのはその性格だ。
簡単に言えば人がいい。
族の総長になった理由も、友人に頼まれたしいやではないからというような理由であったし、何度か委員長なる役職もしたことがあった。
任されたことはきっちりこなすし、この学院で特進科にいる理由も、兄を見習い、奨学金制度を利用したかったから、だ。
口はいいほうではないが、いい意味で次男気質な彼は、縁の下の力持ちになりがちな性格だった。
「センパイ、今日も補習ですか?」
「あぁ、英語…」
だから、芸術科のしかも一年生の生徒が彼を尋ねてくるのは非常に不思議な現象であった。
「何時におわりますか?」
「三時には」
「じゃあ、美術準備室の2に来て下さい」
「わかった」
モデルでも頼まれたのだろうか。
一緒にいたクラスの生徒たちは、首を傾げた。
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