野獣も猛獣1


俺は常に真剣だ。
「シマと同衾するにはどうしたらいいんだ」
「今更あんた、何いってんすか。したらいいでしょ、恋人だしやることやってんだから」
可愛い舎弟がどんどん投げやりになっているのは、気のせいではない。それというのも、俺が何かあるたびにシマに新しい性癖を埋め込まれ、部屋に篭もるからだ。
「出来ねぇよ。シマと一緒にいたらやっちまうだろ。しかも、シマが限界を知らないだろ。何かよく解らないまま逃げるだろ……ほらな」
「いや、ほらなじゃないでしょ。基本的にシマさん、あんたが余計なことをしなけりゃ、ドロッドロにしたりとかしないでしょ」
いつも、シマが蝶番を壊す部屋で篭もったきり、しばらくシマとは会えていない。空気に触れるのも刺激的だという体験をして以来あっていないのだ。シマは相変わらずまめで、部屋の前まで来ては俺の舎弟に追い返される。
「何言ってんだよ、シマがいるのに何かしねぇ理由がねぇ」
だからといって、こうして部屋に篭もってシマに会いたい会いたくない会いたいと、乙女も顔負けな乙女ぶりを発揮してしまっては、ままならない現状を嘆いているのもどうなのだろうか。近頃は、そのままならない現状についてよく考えるようになった。
そのままならないことの一つが、同衾だ。
「そんなだから、いつも逃げ帰ることになるんすよ。ちょっとは俺たちのことも考えてくださいよ。あんたが逃げ帰るたびに、あんたの空気に当てられ、ドアは破壊され、シマさんは怖いし」
舎弟の言う怖いシマを想像し、俺は身を震わせる。舎弟のいう怖いシマは俺にとっても怖いのだが、それ以上に、身体を反応させた。怖いシマはいつも俺に想像以上の気持ちよさを刷り込んでくれる。お陰で近頃は自分でしてもうまくいけない。
「とにかく同衾だ」
あまり考えるとしたいのにシマに会いたくないでも会いたいの悪循環が始まってしまうため、俺は無理矢理話題を戻す。
舎弟はあきれたようにため息をついた。
「同衾っつったら、寝たらいい話だろうと思って、少し練習したけどよ」
「……あんた、馬鹿なの。いや、常々考えて行動なんてしてるとは思ってなかったけど、あんた馬鹿なの?」
二回も同じことを言ってくる舎弟に、笑ってやる。
「何言ってやがる。俺が頭のいいことなんてあったのか」
「あ、すみません、なかったっすね」
舎弟はそう言って、俺から離れた。
「あんだよ、ドン引きしたってか?」
「そういうのは今更なんですけど、そろそろ来ると思って」
「ハァ?」
俺が首を傾げると同時に、部屋の外から遠慮容赦のない足音が此方にやって来る。部屋の前まで来たと思う前にまた蝶番が飛んでいった。
「コォセエエェェ……」
僅かに傾いだ顔が怖い。
破壊されたドアがあった場所には、シマが立っていた。いつも通りのお洒落で男前で、息も出来ない恐ろしさと俺を見下ろす無感動な目が、俺の身体を震わせる。
「ァ……んな、何……っ」
一瞬止まった息は上がるし、背中はゾクゾクするし、足も開く。
舎弟は俺の状態を知ってずか、そそくさと部屋から出て行き、壊れたドアを出口に立てかけていった。
「余所見する余裕がまだあるのか。そうだよなぁ?なんせソフレとか作ってたんだもんなぁ?わかってんのか、何もねぇとわかっていても、おもしろくねぇのわかるよなぁ?俺がソフレ作ったらどうだお前」
「ハァ……?んなん、寝取る」
シマがゆっくりと俺に近づきながら言ったことに、俺は一瞬我にかえる。身体は寒いやら熱いやらよく解らないというのに、シマがソフレを作るといっただけで腹が立つ。正直に答えると、さらにシマの顔が傾いた。どうやら俺の答えはシマを更に怒らせたらしい。
「わかってねぇみたいだなぁ……?今度は自分でしてもいけないようにしてやろうか」
それはもう手遅れのような気がする。
俺は足を閉じることも出来ず、震えながら、シマを待つ。
ああ、シマ好き、ホント好き。
色々top