そういうこともあらぁな



人間関係で責任をとるというと、まっさきに思い浮かぶのが嫁に貰う……というのはテレビの見すぎだろうか。もしそうならば、どれほどよかっただろう。
俺は何故か、いつものあずまやでその責任をとらねばならないシガに膝枕をしていた。
俺が脱童貞してから、以前とあまり変わっていない。
あの事件はなんだったんだと思うほど、変わりないのである。
ただひとつ変わったことがあって、それは俺とシガの身体の関係だ。しごくだけのセフレからしっかり毎回騎乗位されてのよくわからない関係へグレードアップである。
それ以外は本当に、前と変わらず甘えられていた。
シガは前々からあまり話をするタイプではないし、俺といると大抵その身を甘えるように寄せてくる。ちょっと後輩というにはべったりで、友人ともいえない甘さが俺にもあり、恋人のようだと思ってしまう。 自然と恋人になることもあるだろうが、いまだシガの気持ちを聞けずにいる俺は、結局、なんだかよくわからない関係のままだと思っていた。
責任をとるといってしまった手前、こんな肉体関係やめようだとかいってまた泣かせるわけにもいくまい。
俺はそんなことは考えては、そのままずるずるシガを甘やかすばかりだ。
「シガ、来月のはじめからしばらくは、呼び出されても来れねぇから」
「……なんで」
「修学旅行」
そんな俺に、神様は時間をくれたようで、三学年はじめのほうに海外に行くという修学旅行が近づいていた。シガは俺の顔を見上げたまま徐々にその顔を曇らせる。
「不良なんだろ」
「ヤンキーでも行くやつは行くだろう」
来月から俺を呼び出しても、会えないというのが不満なのだろうか。近頃、恋人の噂もきかなくなったシガは、ヤリタイ盛りだといわんばかりに俺を呼び出してはねだる。俺だけだといわれているようで、そこは嬉しい限りだ。しかし、このはっきりしない関係のせいでふと思い出したかのように俺の気分は落ち込み、ため息をつかせる。
「……帰ってくるか?」
深いため息を嫌ってか、シガは俺から目をそらす。
「修学旅行だぞ。永住するわけじゃねぇし、帰ってくるし、土産も渡さなきゃなんねぇよ。何がいい?」
「何でもいいから早く帰って来い」
目をそらした上に、俺の答えが気に入らないのかシガは拗ねたように顔を足の間に埋めて、小さく呟いた。
これを可愛いと思えなければ、恋などしていないだろう。
俺はこちらを向いた頭を撫でると、いつも通り決まったことみたいに口を開く。
「好きだ」
そうすれば、やはりいつものようにシガは小さく頷くのだ。
頷いてはくれるのに、好きだとは返してくれない。
人を好きになれば、必ず告白をしなければならないわけではない。
では、好きだと告白して、それが恋愛感情だと思われていないとして、優先事項が俺にとってはシガでシガにとって俺なら、いったい、恋人というものにどれほどの重きがあるのだろう。好きだと言って好きだと返ってこないことにどれほどの大事があるのか。
シガは俺のことが好きだとは思う。それがどういった感情で好きなのかは俺が決めることではなく、それを測れるほど俺も優秀ではない。 けれども、俺に甘えてくれて、俺がいないというだけで不満そうな顔をする。それほどには好かれているのだ。
恋人である必要があるか。
好きと返ってくることに意味はあるのか。
俺はお得意の諦め癖で思うのだ。
そういうこともある。
そう、神様はくれたのだ。
俺に俺自身を納得させる時間というやつを、くれたのだ。
俺はシガの頭をなでるのはやめ、あずまやの外を見る。
春に芽生えた新緑は、まだ若葉といって差し障りない。しかし、確実にその色を濃くしている。時間は待ってくれない。
どうしてこうなってしまったのか。
俺はため息をつくしかない。