うちのヘッドは、本当にやる気がない。
そこのあたりも踏まえて、満場一致の平和的な挙手でヘッドになったのだから誰もそれについて文句をいったりしない。
むしろ、うちのヘッドはやる気ないくらいが平和でいい。
うちはあまり血の気の多い連中で構成されていないというか、やんちゃはやるだけやった末にたどり着いたみたいなところがあるから、それでいい。
たまにチーム内トーナメントとかするけれど、そこで全部血の気は抜いてしまうから、そう、ヘッドのやる気のなさにはまったく不満がない。
もし、うちのヘッドにやる気があれば、その時こそ、うちのチームは全力を尽くさねばならない事態であるため、やる気がない方が本当に助かる。
普段はダラダラしているというか、そのやる気のなさ故に、すぐに俺になんでもやらせようとするヘッドなのだが、やる気のスイッチを押してしまったら最後、目的を果たすために手段を問わず、突っ込んでいく。
これを止めることが難しいあたりが、うちのヘッドの強さだ。手段を問わないのが、単純に腕っ節の強さだけ……暴力だけで解決してしまうのなら俺たちも笑っていられたのだが、ヘッドはそれだけではなかった。
どこかのヘッドの執着がひどいとは噂に聞くが、うちのヘッドの目的を達成するためならなんだってする具合も本当にひどい。
いつかはどこかの金持ちを手篭めにし、いいように使い、気に入らない人物を社会的に抹消しようとさえしていた。
そんなことは滅多にないのだが、腹に据えかねたんだと思う。チームでそいつをボコリ、晒し上げることで、なんとか社会的な抹消を避けてもらったのだが、本当に恐ろしい。ヘッドは腹に据えかねたかもしれないが、こちらは腹が冷えた。その後もヘッドはその金持ちとなんだかんだ上手いこと友人としてスライドし、付き合いがあるため、まだ危機はさっていない気もするが、置いておく。
そんなヘッドだが、本当に、普段はただのやる気のない気のいいやつだ。
冗談はよく言うし、チームの連中との仲もいい。
よく一緒にくだらないことをして遊んでいる姿も見るし、俺も混ぜてもらっている。
皆、いいヘッドだと思っている。
だからこそ、毎日、失恋パーティという名のヘッド応援会は開かれていた。
「いい加減、くっつかねぇかなぁ…」
「知らないのは本人だけってやつだよなぁ…」
ぼやく連中に交じって俺もうんうんと頷く。
「シマは思い込んだら、なかなか気がつかねェからァ…」
シマが思い込むのも仕方ないくらい、シマの片想いの相手、実美はシマに会おうとしない。拒否されているといってもいい。
俺から見ても、シマを排除しようとしているようにしか見えないのだが、シマがトボトボと帰ったあとに、ちょっとその場に残るとすぐ解る。
シマを好きで好きで仕方ない実美は、豪快に照れているだけだというのが。
あちらのチームもそれを誤解されたままでは困ると、シマ本人に伝える前にうちのチームに伝えてくれた。シマ本人は敷居の高い人ではないのだが、あちらは何故かシマに直接言うのは敷居の高い行為だといって、避けているのだ。
おかげで、あちらとうちのチームはとても仲良くなっていて、ヘッドを放って同盟でも組んでしまおうかなんて話まで出ている。
知らぬはヘッドばかりなりだ。
しかし、そんな日々も転機をむかえるものだ。
ある日のこと、シマが路地裏で襲われた。
いくらやる気がないといえど、素晴らしい腕っ節の強さを持つシマであるから、うまいこと応対してくれたのだが、シマを襲った人間はシマのやる気に火を付ける台詞を吐いてくれたらしい。
その台詞を吐いたせいで、そいつは逃げ足を折られ、最終的に溜まり場まで引きずられて来ることになった。
「……シマ、それ、どうしたァ…?」
「コレ?気に入らないから、持ってきた」
「いや、気に入らないなら捨ててこいよォ…元居た場所に返してらっしゃい」
とは言ったものの、元居た場所に返してくれそうもない笑みをシマが浮かべているので、俺はシマの持っている人間を、どう奪取すべきか悩んだ。
シマの持っている人間は、さすがに気を失っていて、気を失ってなかったらもう、泣いてごめんなさいを何度も言っていたに違いない。
「だぁって、こいつ、俺がセブンに行くの知ってて、俺足止めに来たとか言うんだぞ」
「いや、それだけでぶっちぎったのか?」
ヘラヘラと笑い出したシマに、俺は焦りを覚えた。
シマがヘラヘラと笑い出すときは、収集がすでにつかないところまできている合図だ。
こんな短時間でシマの導火線を燃やしているやつに、舌打ちした。
「いや?それだけなら、あっちもお強いっていうか、強いし、気にしないっつか、鼻で笑う」
では、一体何がお気に召さなかったのか。
俺はピクリとも動かない人間を見つめた。
まさか死んではいないだろうな。
「うちをめちゃめちゃにするとか、あっちをどうかするとか、俺に負け犬してる時点でねぇなぁ…って思うけど、まぁ、好きなように、言ってくれたわけよ。今頃な、実美はいつものご乱交してる立場から、マワされる立場になってて、ビデオとるとかとらないとか…遠吠えするなら、もっとましなこと言えば、こうはならなかったのになぁ…あれ?これ、遠吠えだったかな、違うかもしれねぇわ。これ、吐かせたことだっけ」
言われたことも整理できなくなっていることからわかるのだが、もう、シマに何を尋ねても無駄だ。ブレーキがかからないし、まともな答えは帰ってこないだろう。
「細かいことはいいから、これのチーム潰して来い。あ、キィは俺と一緒にセブンにいこうか」
こうして、セブンに襲撃しに行っている連中をボコボコにして、セブンにそのまま侵攻。可愛そうに罪もないセブンの下っ端が、ついでに実美犯しにいってくると笑ったシマに蹴飛ばされた。
おかげで、シマは絶倫のシマさんと呼ばれるようになってしまったが、自業自得である。
「そんで、お前結局、なんでぶっちぎれたのォ?」
ことが収まり、さらにセブンのヘッドに避けられるようになったシマが落ち込んで膝を抱えながら答えてくれた。
「……実美犯してパーティするって…最初は負け犬がセブン襲うっていうのきいたから捕まえただけだったのに……」
「あー…ちゃんと、答えてくれてたわけねェ…そんなに好きなら、もういっそのこと、あってくれなくても告白して謝っちゃえばァ…?」
きっとうまくいくであろう。
シマはしばらく頭を抱えたあと、フラレに行ってくるといって、セブンの溜まり場に行った。
きっと今日も帰っては来ない。
end