友人Aの先制


「さぁ、今こそ立ち上がるのだ友人よ!!」
キャアッー!だとか騒がしい食堂。
ふくかいちょうさまぁああああだとか、いやあああそんなオタク野郎にいいいいだとかいう悲鳴が聞こえる。
俺はラーメンの汁をすすったあと尋ねた。
「何故?」
「それは、阿南(あなん)くんが地味系平凡ポジションだからです!ちょーっと背がだいぶたかいけどー!」
書記さまどおおしてええええええ!だとか、会計様までえええええだとか、今日の食堂は本当に本当に騒がしい。
「へー」
俺は眼鏡がくもったのをふくことなく、箸をおいた。
「幸か不幸か、同室者じゃん!昨日いなかったけど!完璧なポジションだよ!?」
キャアアアアア会長様ぁあああ!どうしてそんな奴をおおおお!?とバッグミュージックが叫びだしたあたりで、俺はおもむろに立ち上がった。
「お、ついにやる気に!?」
だなんて言っている友人はおいておいて、俺はゆっくりと……次第に駆け足に、いや、むしろ助走にして駆け出す。メガネを外して。
そして、俺は迷わず勢い良く生徒会長の前に躍り出て、その胸ぐらを掴むと引っ張りこみ、生徒会長が混乱しているのをいいことに、一分ほどキスをした。
食堂は息も絶え絶えで崩れそうになった生徒会長を支えながらも一分間キスしてしまった俺に、沈黙。
「消毒」
「……」
身体を俺の腕に収めたまま、俺を焦点のあわない目で見た会長はわずかに首をかしげる。
「靖司(せいし)…?」
「おい、転校生」
メガネを外したせいで、おそらく睨みつけるようにして見ているだろう俺に、転校生が、なんだよやるか!みたいな態度をとる。
「残念ながら、これ、俺のモンだから、手ぇだすんじゃねぇよ」
「そいつからキスしてきたんだ!」
「それが、本当だとして…潤(じゅん)」
俺の腕の中で未だぼんやりしている会長…潤の視線が俺のそれにかっちりとあった。
「ヤキモチ妬かせたかったなら、もっとうまくやれ?じゃねぇと、捨てるぞ」
そのへんに。
と、支えている腕を離そうとする俺の腕を、潤が必死に掴んでくる。
「したくてしたんじゃねぇ!よろけて足踏み外したところにこいつがいて、事故だ…!」
「よろけた原因はもしかしなくても、俺か?」
「……お前だよ」
それはすまなんだ。と、再び腰を支えて、頬にキスすると、既に潤はご機嫌だ。
「そんなわけだ。転校生。すまなかったな、俺のせいだ。ファーストキスだったら、忘れろ。こいつが好みだったら、ま、ラッキーだと思え?残念ながら俺のもんだが」
俺は再びメガネをかける。
キスをするのにちょっと邪魔だったもんで、外したのだ。
「潤、大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇよ、このテクニシャン…」
「明日から大騒ぎだなー…転校でもするか」
「ちゃんと俺も連れてけよ?」
「もちろんだ。このままにするとお前が襲われるだろ」
この学園の野獣共に。
とかいいながら、俺は潤に肩を貸しながら食堂をあとにした。



この十数分後、会長やめないでください!だとか、制裁とかそんなこと絶対しませんから!だとか、あの地味な人でもいいんで!学校やめないで!とか嘆願書が山ほど出た。
愛されてるな、俺の恋人。
なんて思いながら、俺はコンタクトをして、髪型をかえて、今、その嘆願書を眺めている。
「いいんちょー、いいかげんその二段変化やめましょうよー」
「二段変化とか失礼だな。俺は普通にしているだけだ」
「普段からメガネになるか、髪下ろしたままにするか、いつもそれにしてくださいよー」
「じゃあ、メガネだな。コンタクト、あんまり好きじゃねぇんだ」
「それにしても、かいちょーあの地味めがねでよくいいんちょーわかりましたねー」
俺は鼻で笑う。
「愛だろ」
「そんで、こんな野郎よく好きになりましたねー」
「まったくだ」
「認めないでくださいよー会長がかわいそうでしょ」
会長やめないでください嘆願書をしたためたうちの一人である副委員長が嘆いた。
風紀委員はひとり残らず嘆願しているというのだからすごいことだ。
「うちのアイドルですからねー会長。委員長がやめたところで、ザマァって笑うだけなんですけど」
「は、ザマァ」
「くそ、なんでこんな人好きなんだ会長!!」



おわり

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