不良と言っても種類がある。
だれもに恐れられる不良。
素行だけが不良。
噂にもならない、無視しておけば大抵好きにやってる不良。
格好だけで、別にそう不良なわけでもない不良。
よくサボり、格好はそのもので、気が向いたら夜遊びして、喧嘩する。
特に悪行が噂されたわけでもなければ、実際何か悪いことを学内でやったというわけでもない。
見た目はそのまま、不良と言われるそれであるし、目つきも悪ければ、意識して笑うこともなく、無愛想。
友好的でなければ、不良であるし、近寄ろうと思う人間は、同じ分類にいる人間以外そういない。
だから、特に何と呼ばれるわけではなかったし、少々顔が整っていたところで誰かに騒がれるわけでもない。
不良の一人。
タスクはそれだった。
風紀委員長に指名された、不幸な一人でもあった。
理事長が奇怪な行動をするのは、学園の者で知らぬものはいない。
また理事長の気まぐれに巻き込まれて可哀想に。そう思うだけで、掲示板に張り出された牧瀬佑は有名人になりもしなかった。
「っざっけんなっつうの!」
屋上に入るなり叫んだ男に振り返り、その男と目を合わせて二人して見つめあったあと、タスクは首を捻った。
少し寝癖がついた髪の毛は少し赤みのある茶色。
意志が強すぎてそれを表したかのような目はキツすぎる印象と反目するかのように柔らかい色をしている。
それを否定するかのように眉間に寄せられたシワはふかい。それにもかかわらず顔を損ねることなく、苛立ちを表しながらも、それすら見ていたいと思わせる容貌。
美しい、綺麗というには少々大雑把さを残す男らしい顔は、この学園にいれば誰もが知っている。
生徒会長だった。
生徒会長は、その時、いつもとは違う様相を呈していた。
いつもと同じく足は長く、その足を収めた制服は、嫌味なほど似合っていて、見苦しくならない程度に普段から着崩されているが、その時の彼は寝乱れたというには少々着衣の乱れがひどすぎた。
ベルトを持った手は、スラックスが落ちないように引っ張り上げているのだが、本来それはベルトがする仕事であって、彼の手がするべき仕事ではない。ベルトがゆるい、というわけではなく、彼のスラックスがくつろいでいて、ベルトをちゃんと締めてないせいである。
いつもなら見えるはずのない下着が見えるのもそうだが、シャツのボタンがいつもより空いているのもそうだ。
その様子は襲われて逃げてきたそれだ。
「……」
「……、会長。とりあえず、服、なおすといいんじゃねぇか…?」
顔を見合わせたまま、こんなところに人がいたのかといった表情のまま固まった生徒会長はどうにか頷いた。
「あ、ああ…」
生徒会長は、タスクが屋上でサボっているだけの時から有名人だった。
生徒会長ということもそうであるし、顔貌が素晴らしいということもある。
なにより、校則違反をして暴れる不良どもをさらなる暴力で屈服させることで有名である。
この会長がいるうちは、風紀委員長など必要あるまいといわれていた。
「それで、俺はここにいない方がいいのか?」
「は?」
「…襲われたんだろう?」
一瞬、誰もが褒める顔が歪んだ。
不愉快。それが現れた表情はいかにも生徒会長らしい。
「冗談じゃねぇよ。たかが襲われた程度で、この俺がどうかなると?」
この世の理であるかのように当然のことを言った風な生徒会長の言葉に、タスクは思わず声をあげて笑った。
「…違ぇねぇ」
襲われたということさえ認めたくなさそうな会長の後ろにあるドアへとむかい、すれ違いざま、タスクは会長の肩を叩いた。
「ま、ドンマイ」
「……、…サンキュ」
何か言い返そうとした会長は、少しだけ逡巡したあと、素直に礼を言った。
あの会長も可愛いところがあるものだ。
タスクはそう思って、意外と機嫌よく屋上から降りた。