「志塚(しづか)…!」
アオは生徒会室の重たい扉を軽々と開け放ち、生徒会室に副会長を見つけるなり叫んだ。
「……なんですか、宗崎会長」
「さっき、クソみたいなストーカーに襲われたんだが」
副会長はパソコンのキーボードをタイプすることをやめた。
「冗談でしょう?」
思わずそう返してしまうくらい、生徒会長の宗崎吾雄は平然とした様子で生徒会室に現れたのだ。
「いや、マジ。でだ。お前、クラス写真もってんだろ?見せてくんねぇ?」
「え、ストーカー、クラスの奴なんですか?」
「おー。名前、把握してんだろ、お前」
「ええ、まぁ…え、貴方、中等部からほぼ変わらないあのクラスの人間を覚えてないんですか?」
「俺はどうでもいい人間は覚えねぇんだよ。俺の周りと、俺の印象に残ったやつと関わるだろうなぐらいのやつしか」
「いや、クラスにいたら関わりません?」
アオはえらくあっさり首を振った。ひとクラスという狭い範囲にいても、かかわらない人間は少なくないのだ。
「俺は狭く濃く、なんだよ。遠巻きに見られるしな」
宗崎吾雄は、絵に描いたようなカリスマだ。
実家は有名な一族の本家。その後継であるアオは、成績も然ることながら、運動神経も抜群、さらには顔よし、スタイル良し、将来性もある。
なにより人を惹きつけてやまない人間だ。
しかしながら、彼は輝かしすぎた。
あまりにも眩しすぎて、釣り合わないだとか、ふさわしくないだとかそんなことを気にされて、遠巻きに眺められることが彼は多かった。
交友関係について、幼い頃はそれなりになんとかしようという気があったのだが、もともと彼は、彼についていける、ひいては噛み付くぐらいの人間が好きだった。
自然と、遠巻きに眺めて噂話に花を咲かせるばかりの人間には、それなりの態度しか取らなくなっていた。
居丈高になったり、何かにつけて鼻にかけた物言いなどはしたことがない彼であったが、いつの間にか彼の前には高い壁が出来ていた。
その壁を自身で壊すことなど、そう難しいことではないが、彼はあえてそれをしない。
必要性を感じたのならそうすることにためらいはないが、その必要性を感じないのだ。
「そんなこと言ってるから、あんまり友達いないんですよ」
「それの中にお前入ってんだから、光栄に思えよ」
軽く冗談を言える友人がそばにいるのだから、それでいいと彼は思っている。それが一人ではないので、志塚副会長もそうはいうものの彼に深く言及をしたことがない。
「で、クラス写真」
「はいはい。これですか?」
毎年、クラスの人間の入れ替えがあまりないのにも関わらず、撮影される大きな一枚の写真は、副会長の机の引き出しからすぐさまでてきた。
アオはそれを受け取って、数秒もしないである人物を指差す。
「これ」
「井浪(いなみ)くんですね」
「これが、指示して俺を襲わせた挙句写真撮影してやがった」
「……それはまた堂々とした盗撮で」
「危うくグラビアか痛々しい枕かシーツ並の格好でハ」
「もういいですから。あなたのことです、野生の勘で察知したんでしょう?」
アオは副会長の様子に、少しのあいだ黙ったあと、会長机の上にあるトレイを指差してこういった。
トレイには昨日まで溢れかえるほどの書類があったが、今はトレイが見えるほどしか書類が置かれていない。