「本当にあのバカは…」
ギリギリと歯を噛み締めて、眉間に皺を寄せたタスクを見て、背中に何かまっすぐしたものを入れて矯正したくなるよなふにゃふにゃの笑みを浮かべたタダシが、生徒名簿をめくった。
「副会長が密告してくれてよかったねーじゃないと、またとばっちりだもんねー」
「報告されてもとばっちりだ。あの野郎が暴れだしたら、避難して止めもせず煽るのが副会長だぞ」
タダシは名簿の見たかったページを見つけると、首を一度かしげる。
「じゃあ、タスクがお願いしたらー?あーくんお願い!」
「誰がするかよ。つうか、あーくんって宗崎か?」
タスクの疑問には答えず、タダシは開いたままの名簿をタスクに渡す。
タスクはそれ以上追求することなく、その開かれたページに視線を向けて再び口を開く。
「またこの野郎か」
「しっかりブラックリスト入ってる上に、風紀のチェックもされてるっていうのに、この子、欲望に忠実な子なんだねー」
そのページには風紀の要注意の判と、備考欄にその生徒の起こした事件が書かれている。
生徒会長盗撮事件。
詳しくは風紀委員会事件録なる資料に収められている資料に記されているが、それをみなくともタスクは思い出せる。
生徒会長が襲われ、撮影され、挙句脅されるという、脅迫事件だった。
盗撮という名前が付けられたが、実際はただの脅迫事件だったのだが、生徒会長の身の振り方や、その事件を起こした生徒への温情でこういったかたちが取られたのだ。
「温情なんて残してやるもんじゃねぇな」
「いやーでも、あのときは反省して見えたんでしょー?っていうか、タスクにちょー怯えてたって聞いたよー」
「誰にきいたんだよ」
「副かいちょーに決まってんじゃーん。仲いいもん。マブダチ」
「その言い方、ちょっと古くないか?」
生徒名簿に貼られた毎年新しくなる証明写真は、笑っていいのかそうでないのかわからず、中途半端な笑みを浮かべる、普通の男子高校生がいた。
井浪慶太(いなみけいた)生徒会長ともタスクとも同じ年で、同じ学年。事件を起こすまでは生徒会長と同じクラスであり、今ではタスクと同じクラスである少年だ。
盗撮事件のおりに少し、脅しすぎたのか、井浪はタスクを見かけるたびにビクリと肩を震わす。
コンプレックスであろう低い身長も相まって、まるで怯える小動物のようだといわれていた。
「タスク、今回会長が襲われたのはー?」
目を細めたタダシは、ふにゃふにゃした笑みを底意地の悪い笑みにかえる。
タスクは苦いものを噛み潰したような顔をして、首を横に振る。
「犯人がこいつじゃ、俺の監督不行き届きってことになる」
「せいかーい。よくできまーした」
風紀委員会に無理矢理入れたときとは違い、随分ふてぶてしくなったタダシを軽く睨みつけたあと、タスクは眉間をもんだ。
「で、不行き届きだった俺には、宗崎のめちゃくちゃな計画に加担する責任があるとかいうんだろ、お前は」
「当然。うん、てかまぁ…守ってあげなよー。かいちょー好きでしょ?」
「そこそこ」
「かいちょー片想いだ、つらぁーい」