タスクが投げやりに放った名簿を片付けながら、上機嫌なタダシに、タスクは会話をかえるためにもテーブルの上に置かれた赤い腕章をなんとなく見つめながら尋ねた。
「あいつの片想いはいい。それより、お前の後釜きめたのか?」
テーブルの上に置かれているのはすっかり、タダシ専用となっている腕章だ。
風紀の持ち込み禁止物を入れておく棚についている引き出しの中には、風紀副委員長の証である指輪が大事にしまわれてある。
風紀の副委員長は色々なことが考慮されて二人いた。
一人でも足りなくはないが、二人いたほうが都合がいいし、それが定員なのだから揃っていた方がいい。
誰もが、タスクに風紀委員長に戻って欲しいと思っているように、風紀副委員長のもう片方の椅子はタダシが座るものだと思っている。
しかし、タダシにしてみれば脅されるようにして座った席だ。
しかもその席は、タダシにとってタスクに脅されて座ったのだから、タスクがトップにいなければ座ることを遠慮したいものだった。昔ならいざ知らず、現在は、タスクが定位置につかなければ、その椅子は無意味であり、不必要であり、不自由なものだ。
クラヒトはその椅子から周りをみて楽しんでいるから今も座っている。
もしも、タスクとタダシが風紀委員会から去るのならば、クラヒトとて、その椅子に座ってはいないのだ。
タダシは、タスクに振り返り、首を振った。
「なんかイマイチでさー。もう一人でも大丈夫だし、いいかなーってちょーっと思ってる」
「それに関しては、俺もちょっと思ってるが」
そんなことをいうと、風紀委員長の犬だと呼ばれている、現風紀委員長亘理平介(わたりへいすけ)は情けない声で文句をいうのだろう。場合によっては情けないながら、少々泣いてしまうかもしれない。
「へーちゃん泣いちゃうよー?大好きなイインチョがそんなじゃー」
「愛してる副委員長がそんな調子だと部屋の隅でいじけてしまうかもしれないだろ」
「可愛いでしょ、俺のだから、あげないけどー」
「いらねぇからさっさと、帰ってやれ。それこそ、部屋の隅で寂しくて泣いてるかもしれねぇから」
風紀の元トップたちの話をそれとなく耳に収め、風紀委員室に残っていたタスクが委員長ではなくなってから入ってきた委員たちは、そんな馬鹿な、可愛いはずがない。いや、それよりあのふたりは何をサボっているんだと内心、色々思っていた。
風紀委員歴が長い委員ほど、本当に泣いているかもしれないから早く帰ってください、俺たちの心の平安のためにと心底タダシに祈った。
現在の委員長は、委員長となったことを良しとしておらず、副委員長が副委員長でないことにも一頻り文句を言った人物である。
文句を言っている間、止める人間がいなかったものだから、余計な損害を被った委員たちは、いつでも元風紀委員会トップたちの会話にヒヤヒヤしているのだ。
「もうちょっと放置してもへーきー」
「ま、オトコノコだもんな…飯食って、テレビ見るくらいのあいだは平気か」
古参の風紀委員たちは心の中で泣いた。