「ごめんごめん、会長って結構強引でぇ…君が止めてくれて、本当助かったよぅ」
会長から逃げ切って、ベンチでぐったりしている時のことだった。
校舎から、声が聞こえ、タスクは声を探し、見上げた。
校舎のとある窓からタスクを誰かが見下ろしていた。いつかのように西日が眩しく、それが誰であるか一瞬判断がつかなかった。
しかし、今回も誰がタスクに声をかけたのかすぐにわかった。
間延びした口調と少し甘さを感じる声、当時の会計だった。
タスクは、あえて、会計に何も言わなかった。
「あ、だんまりだぁ。なんで不良ってボク見たら、そうやって黙るのぉ?」
生きている世界が違っていそうだからと、面と向かっていうこともないだろう。
タスクは、なんとなく理由を察していながら、首をかしげてみせた。
「ふぅーんいいけどねぇーべつにぃ。で、君が、牧瀬佑くんなんだって?」
タスクは黙ったまま、頷きもしなかった。
余計なことを押し付けられる予感がしたのだ。
「あのね、風紀委員長になってくれないかなぁーって」
タスクはやはり口を開かなかった。
生徒会や風紀委員会、その他、委員会と名のつくものは学園の雑用係のようなものだ。
できればそういったものからは離れて、毎日好きなようにしていたいタスクは首を横に振るしかない。
「って、いってもぉ、正式にはどうにもなってないけどぉ、理事長がその気ならぁ…時間の問題だしぃ?一応、風紀委員長なんだよねぇー今も」
見上げていると首が疲れてきたのか、タスクは視線を地面に落とした。
会計の人の話を聞かなさそうな態度に疲れたということも考えられた。
「ボクほらァ…来年、三年せぇーじゃなぁい?会長とぉー副会長はぁー一年生とかなっちゃったけどぉーかっちゃんも三年生だしぃー来年は早々に引退だしぃ…止める人がほしいんだよねぇ」
タスクも、生徒会長を止める人間が欲しいと思ったが、それが自分である必要もないだろうとも思った。
あの会長を野放しにしておくのは危険だ。
このまま風紀の仕事を生徒会にやらせれば、必ず生徒会長はああして出てくるだろうことが分かっている。
だからこそ、風紀の存在を願わずにはいられない。
しかし、それは、あの生徒会長を止められる逸材が風紀委員会に存在していればの話だ。
もし、風紀にそれがいなければ、生徒会長は風紀の意思を無視して動きまわるだろう。
「君さぁ…会長を正気に戻らせた上に、意見して、しかもまんまと逃げおおせたらしいじゃなぁい」
早くベンチから立って、この場から退散しなければ押し切られてしまうのではないか。
タスクは心の中で悪態をついた。
理事長に押し切られようが無視できる。
しかし、それは理事長に付きまとわれても、理事長は一生徒にそれほど時間をかけることができないことを知っているからできることだ。
それに理事長は、あれでいて最後の一歩を踏み出すことはしない。最後には、生徒に選ばせるのだ。
それを行うのが学生で、しかも、学園では絶大の権力を持つ生徒会の人間となっては、無視しても、結局押し切られてしまうことが分かっている。
「ねぇ、風紀委員長」
「……それは、今、断ってるところです」
「うわぁ…他人ぎょーぎぃ。拒絶されてるぅってかんじ」
わかっているなら、やめてもらいたいものだ。
タスクは心から願った。
「ボクちょっとマゾっけあるから、君、風紀委員長やりなよぉ。決定ねぇ?楽しいもぉん」
本当に、心の底もはしの方から満遍なく埋め尽くすまでタスクは思った。
風紀委員長になんかなるものか。
残念ながら、タスクの願いや思いは届かず、数日後、タスクは副会長から直々に風紀委員会設立の書状をもらうこととなった。
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