風紀委員会への刺客


その日の風紀委員会は、少し様子が違っていた。
委員長がいないのも、タスクが風紀委員室で我が物顔をしてだらけているのも、副委員長がスケッチをしている横でタダシがパソコンのトランプゲームをしているのも、いつも通りだった。
しかし、いつもの少し騒がしい雰囲気は何処にもなかった。
理由は、折りたたみの会議机の上に出された一枚の招待状だった。
高級感をかもし出す黒いマットな紙に、金の箔押し。筆記体で書かれた文字も、その招待状を格好良く見せていた。
「宗崎会長バースデーパーティー」
風紀委員の一人が呟く。
生徒会長のアオを祝うためのパーティーはこれまでいくつか企画されたことがあった。
そのたび、生徒会長であるアオや、他の生徒会面子によって阻止されてきた。
それにも関わらず、今回アオの誕生日会が開かれた。
これは何かの罠に違いない。
風紀委員会室に設けられたポストに入っていた招待状に、風紀委員達は戦慄した。
「あ、そう思えばタスク、招待状もらった?」
「あ?」
「誕生会の」
今まさにその誕生会の招待状が風紀委員会に届けられたことで、風紀委員の仕事は滞っているというのに、タダシがマウスを動かしながら、軽く尋ねた。
尋ねられたタスクは、ちらりと風紀委員達が集まっている方向を見て、漫画雑誌に視線を落とす。
「あそこに届いてるだろ」
「いや、じゃなくて。俺、個人的にもらったんだよ、レイちんに」
「私もマコトくんからもらったわよ」
この様子ならば、今は風紀委員室にいない委員長も招待状をもらっているに違いない。風紀委員達はタスク達の会話に耳を澄ませた。
「いや、もらってねぇよ」
「え?マジ?何が何でも、タスクだけはもらいそーなのに?こーゆーのだよ?」
タダシがパソコンから目を離し出した招待状は、風紀委員会室に届いたそれとは違っていた。
いかにも幼稚園児が作ったような、折り紙で折られた招待状だった。
金色の折り紙で折られた朝顔の真ん中には招待状と流麗な字で書かれていた。
「あら…私のとはちょっと違うわね」
そういってクラヒトがだした招待状も、委員会に届いたものでもなければ、タダシがもらったものとも違った。
それは、ちっとも厚みのない藁半紙に刷られたものだった。
「副委員長、それ、嫌われてるんじゃ」
誰かがポツリと呟いたが、副委員長はその声を無視した。
「へぇ、神内に貰ったのか、そりゃすげぇな」
生徒会書記である神内真は、こういったことに興味がない。もし招待をしたいと思っても、メールで招待する旨を発信するだけだろう。
そう考えて、珍しいもの見たさにタスクが再び顔を上げた。
「まこっちゃんらしーねー。ということは、タスクもなんか違うやつ渡されたんでしょ?」
タスクはしばらくの間、悩んで、ふと、何かを思い出したようだ。
「箱ならきた」
「箱?」
タスクはあまり中身の入っていないカバンを引き寄せ、そこから一つの箱を取り出した。
まだ包装すらはがれておらず、寮の住所とタスクの名前が記されていた。
キャスターのついた椅子を動かし近寄ったタダシと、それを追うようにして椅子から立ち上がり、歩いてきたクラヒトが、その箱を受け取る。
箱を裏返すと、差出人がかかれており、それを読んだタダシが首を横に振った。
「これ違うじゃん。会長のご実家からじゃーん。何、タスク会長からご実家のパーチー招待されてるのー?」
「しらねぇよ、開けてねぇから」
「会長のご実家なんて、なかなかいく機会がないんだから、行ってほしいわ。……で、他は?」



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