再びタスクは悩んだ。
今日は他の生徒より遅く登校して、昼休憩時に教室にたどり着いた。そのとき、机の上にも、下駄箱にも何もなかった。
一応、確認とばかりにカバンの中をみて、タスクは違和感に気がついた。
「……これか?」
それは封筒だった。
真っ白で、なんの変哲もない封筒だ。
「あけてあけて」
タダシに促され、タスクは思わずちらりと委員達が集まっているところを見た。彼らはわざとらしく何も見ていない風を装って視線をそらす。
いつの間にやら風紀委員達も息をのんでタスクが封筒を開けるのを待っていた。
「別によくあるやつじゃねぇか」
「別によくあるってラブレターでも貰ってんの?」
「いや、果たし状」
タスクは封筒の端を何度か指で弾いたあと、封筒の端を指で抓む。
そのまま慎重に封筒を破るタスクの姿を眺めながら、タダシは首を捻った。
「いや、それ、よくあるやつじゃなくない?」
「ちょっとした時代錯誤感があって、とても牧瀬様らしいじゃないの」
「クラヒトが普段から俺をどう思っているか聞いていいか?」
「ふふッ、早く中身見ましょうよ」
封筒から二つに折りたたまれた厚めの紙を取り出しながらも、タスクは流されなかった。
「誤魔化されねぇよ。いいのかわりぃのかくらい……あ?」
「お聞かせできないわ。って……あら?」
タスクもクラヒトも紙の内側に書かれたことを見て、不思議そうに首を傾げた。
タダシはクラヒトに遅れて、それを見て息を詰める。
「これ、招待状じゃなくて、果たし状じゃないのー?」
「時間、場所からすると招待状よねぇ。でも、こられたしって……誰が作ったのかしら。会長はこれに関与してないでしょう?」
会長ならば果たし状を出しそうだ。タダシはそう思って、何度も頷いた。
「レイちゃんが嬉しそうに『一応、サプライズなんですよ』っていってたよー」
タスクは招待状と思われるカードを片手で畳むと、そっと、タダシにそれを渡した。タダシは渡されるままそれを受け取った。
「副会長には悪いが、方角が悪いと断っておいてくれ」
「はいだめー。参加するっていっておくねー」
「あ、物忌みだからもだめよぅ。ふふふ。当日はご本人に連れてきて貰いましょうねぇ」
タダシが受け取ったカードを封筒にもいれず、タスクのカバンを引き寄せ、その中に大事そうにしまう。
「それはいーねぇ。せっかくだしエスコートしてきなよー。会長大喜びだよ」
カバンをうんざりした目で見つめ、タスクは眉間に皺を集めた。
「あいつ、この間もサプライズで誕生会してくれるっつって自慢して帰ったからな」
「この間っていつ?つか、ばれてるよ。だから一応なのかぁ」
「誘拐されかけたって来たときの……あー……あの事件、結局犯人つかまってねぇな。あいつがまったく、毛頭も、深刻じゃなかったから」
それは駄目なんじゃないかという、タダシとクラヒトの視線を受けながら、タスクは視線を風紀委員達が集まっているほうへと流した。
タスクが視線を向けると、いつも風紀委員達はわざとらしく視線を背ける。
タスクは思い切り、ため息をついた。
「担当は……俺になるのか」
苛立ちからか、諦めからか、ことさら冷たく聞こえた声をきき、風紀委員達は決意した。
パーティ参加は止めておこう。
しかし、彼らは知らなかった。後ほどやってきた風紀委員長が全員強制参加させると生徒会役員の一人に発言したことを、そう、知る良しもなかった。



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