生徒会長への刺客


アオは普段から人通りが少ない廊下を歩いていた。
後ろから誰かに追い越される際、肩に手が触れた。
その手が肩を思い切り後ろへと引っ張り、追い越そうとしていただろう相手に、追い越されるはずだったアオがもたれかかる形になる。
「……なんか用か?」
アオがもたれかかると、もう片方の手が伸び、後ろから捕らえられ、アオの肩にあった手が口に伸びた。
それを片手で掴み、アオはもう一度聞く。
「なんか用か?」
近すぎるためうまく焦点が合わない中アオが確認すると、その手には何か布のようなものが握られていた。
それを口に当てて、どうこうする用事があったとすれば、あまり面白い出来事ではないだろう。
アオはそう判断すると、何も言わずアオから逃げようとした人間の腹に肘を叩き込んだ。
「なぁ、何の用?」
同じことを三度繰り返し、返ってこないだろう答えを待つことなく、肘を入れたことによりアオから逃れ損ねた人間から少し距離をとり、アオは振り返る。
そこには見たこともない生徒が腹を抱えていた。
「……見たことねぇな」
アオはどうでもいいことは、覚えないことにしている。だから、アオがどうでもいいと思っていれば、学園に居る生徒の顔を覚えていなくて当然だ。
しかし、学園に居る生徒にはそれらしい特徴というものがある。
それは制服を脱いでしまえば消えてしまうような、薄ぼんやりしたものでも、たとえ、すべての生徒が同じような雰囲気をまとっていなくとも、ある程度、学園を形成する一部のようなものが存在した。
その曖昧な、しかし、なんとなくわかる特徴は、よそ者が同じ制服を着てもかもし出せるものではない。
新しく生徒になった人間とて、一月、二月すれば、その、曖昧すぎる特徴を得られる。
だが、今のアオの目の前にいる人間にはそれが感じられない。
「部外者だよなぁ?」
アオは疑問視するように言葉尻を上げたが、それは確信から来るもので、答えを求めたわけではない。
やはり無言で腹を押さえた人間に、アオはニヤリと笑って見せた。
振り返った時から、アオは隙をみせない。
「まさか、俺を誘拐しようだとかそういう」
動揺のあまり目を見開き、企みを看破されたと思うや否や、その人間はアオに襲い掛かってきた。
「血の気が多いのは……」
襲い掛かってきた人間をすり抜けるようにして避け、通り抜ける際に足を引っ掛けて、アオはニヤニヤと笑う。
「大好きだ」
アオは足を引っ掛けられてもこけずによろめくだけで、無理に走り去ろうとした背中を捕まえた。
相手が動揺している間に素早く、手にもたれたままになっていた布を奪い取り、アオはその布を素早く、捕らえた人間の口元にあてる。
しばらくもがかれたが、やがて、抵抗がなくなり、アオは笑った。
「やっぱ、吸うと寝るタイプの薬か」
捕まえた人間は、着用されていたネクタイで腕を拘束し、ベルトも抜いて、足もしっかり拘束すると、アオは警備員室へ連絡をいれた。
「騒がれるのは本意じゃないので、こっそりこちらまでお願いできますか」
しばらく警備員と話をしたあと、うまく自分自身の思うとおりにお願いができたと、アオは満足したように頷いた。
「首謀者は別にいたりすんだろうなぁ……めんどくせぇの」
そういって眠る実行犯を眺めつつ、アオは言葉とは裏腹にいきいきとした顔をしていた。
「本当、めんどうくせぇ」



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