風紀委員長を任命されたタスクが一番最初にやったことは、抗議だった。
強制的に風紀委員長をやらされ、怒鳴り込む…といった熱い抗議ではなく、ストライキという名前のサボリを行なった。
サボり常習犯であったため、抗議になったかどうかはわからないが、風紀委員会としてはのんびりとしたスタートだった。
ひと月たっても風紀委員会の仕事を始めたないタスクに、理事長が焦れて再び声をかけた。
「牧瀬くん」
「…なんすか」
「風紀委員会、実はまだ牧瀬くんだけなんだが」
無計画にも程がある。
理事長はタスクに、風紀委員すべてを決めてもらうつもりであったようだ。
友人が少なく、かつ、サボり癖がひどいどころか、態度が悪いこともあって喧嘩を売られることも多かったタスクは、簡単にいうとただの不良でしかなかったのだから、理事長の神経を疑うところだった。
「理事長、言っておきますけど」
「ん?」
「俺はどう見ても風紀には向きませんよ」
理事長が、面白そうに笑った。
「牧瀬くん。今回、風紀委員会ができたのはどうしてか知っているか?」
「興味ないもんで」
正直なタスクに怒ることなく、理事長は続ける。
「今の生徒会はとても楽しいメンバーが揃っている」
「さようで」
「私は、その生徒会とね、並び立つ風紀委員会を知っている」
「そうっすか」
「私はまたその姿がみたい」
理事長は風紀委員会を復活させたかったのだろう。
しかし、タスクにとってはいい迷惑だった。
「じゃあ、もっと有望で優等生な生徒を風紀委員長にしてくださいよ」
風紀を正す集団であるはずの風紀委員長が風紀を乱していては意味がないというものだ。
タスクは素行だけではなく、外見も不良らしい外見だった。
目つきが悪いせいというだけではなく、それなりに髪をそめ、それなりに遊びまわっていたのだ。
「でも、牧瀬くんでなければだめなんだ」
「頑固っすね」
「そうだな。頑固だな。だから、牧瀬くん、よろしく頼むよ」
誰がよろしく頼まれてやるものかと思ったにも関わらず、タスクは風紀委員長の椅子に半年も座っていた。
椅子を譲った今でも、風紀委員には委員長と思われている節がある。
何か大きな問題が起こると、何故かタスクが事件を解決する主要人物にされていることが多いのだ。
これはタスクが非常に遺憾とするところである。
風紀委員会を辞めるといった際に、さっさと言い逃げしておけばよかったのだ。
たとえ、腰にしがみつかれようと、必死に足止めされようと、殴り、蹴り飛ばし、風紀委員室から出たら良かったのだ。
そうすれば、タスクは風紀という名称から解放され、会長から熱烈なラブコールを受けることもなかったのだ。
「うまくいかねぇもんだなぁ…」
生徒会室に資料を借りにやってきたタスクが、呟いた。
「何がうまくいかねぇって?あ、今日、飯、一緒しねぇ?」
「お前待つと夜遅いだろうが。腹減る」
「いや、今日は早い」
「何時だよ」
「八時くらい」
タスクは生徒会室にかかった壁掛けの時計を眺めた。短針は四と五の間にあった。
「三時間半も待てねぇ」
「おごる」
「よしきた。待つ」
副会長が『意外と単純ですねぇ』と呟いたが、驕るくらいでタスクが釣れるのならば単純でもそれでいい生徒会長のアオが少し嬉しそうに笑った。
「顔がいいやつはなんでもかっこいいから羨ましいわ」
タスクはアオの頭をなんとなく撫でたあと、生徒会室から出ていった。
あそこで人の頭を撫でていく理由が解らないと呟いたアオは、タスクが天然タラシである可能性について少々考えてしまった。
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