生徒会長盗撮事件について


「そう思えば、なんで、あなたはあんなヤンキー好きなんですか」
ふと零された言葉に、アオはシャーペンを指の上で回しながら、『今日は晴れだな』とこたえるくらいの気軽さで答えた。
「顔」
「……なんで、あんなヤンキー好きなんですか」
机の上に置こうとしていた烏龍茶を取り上げるどころか、一気飲みしてしまった副会長は、どうやらその理由では納得してくれないらしい。
アオは仕方なくタスクが好きな理由を探す。
最新の理由としては、聞かれたら面倒だから『顔』と答えているアオであったが、本当のところ、タスクを好きな理由は判然としない。
だから、タスクを初めて認識した事件を副会長に教えることにしたのだ。
「…盗撮事件について、覚えているか」
盗撮は、見目が人より少しばかり優れており、少しばかり人より成績がいいという理由から日常的に行われているものであり、摘発するだけ無駄だと言われているものである。
しかし、それが『事件』と言われるほどのものとなったのは、アオが生徒会長になって、風紀委員会が設立された十月の出来事だった。
生徒会としては、風紀委員会は生徒会が不甲斐ないからできる組織という認識があり、それの設立となると、これまでの生徒会活動に理事長はいったいなんの不満があったのだろうかと思うだけでも腹立たしい出来事であった。
だからこそ、設立当初、まったく機能していないどころか、風紀委員長に指定された牧瀬佑が風紀委員会として活動しようという気配すらないことに、アオは理事長を何かにつけて笑っていた。それくらい、風紀委員会の設立というものが腹立たしかったのだ。
設立されて、風紀委員会が機能していたのなら、タスクに八つ当たりもしていたのだろうが、機能してもおらず、少しばかり、『ほらな、風紀委員なんてそんなものだ』とも思っていた。
「ええ、あれはなんというか…こんなガサツな男の何がいいのか…と思ったことを覚えています」
『盗撮事件』で被害をうけたのは、たったの一人だ。
現生徒会長であるアオ、ただ一人。
「本人を前にして言ってくれるが、そのとおりだ。何がいいか、未だもってしてよくわからない」
「…ガサツという面を抜けば、わからないでもないかもしれませんが…僕は付き合いが長いので、どうも」
褒められているのかけなされているのか迷ったが、付き合いの長い副会長に、アオは曖昧な笑みを浮かべた。
「とにかくだ。そんな俺の魅力については置いておくとして、あいつだ。牧瀬だ。あの時世話になっただろう?」
「僕はまったく世話になってませんけど、アレのせいで牧瀬は風紀委員会を起動したかんじでしたね」
「そうだな。おかげで楽しい一年が…と、まぁそんなわけで、俺がタスクを好きになったわけだが」
「ええ、まったく話す気はないと、そういうことですね。解りました」
その日以来、副会長は会長に飲み物を提供しなくなり、しばらくして生徒会の冷蔵庫に会長用のペットボトルが常備されるようになった。
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