ご子息の誕生会


タスクに送られてきた箱は、タダシやクラヒトが予想した通り、会長の実家からの招待状だった。
「親父、牧瀬に招待状だしてたんだな、知らなかった」
祝いに来たというより、学園からボディーガードの真似事をしてついて来たタスクが、招待状をさり気なく出したことにアオが驚いて言ったことがそれだ。好きだという割に無関心が過ぎると、呆れた心持ちでタスクは頷く。
「俺も来るつもりはなかった」
「なにいってんだ、誘拐未遂のことがなくても来いよ。てめぇが来たら、誕生パーティーに好きな人に会えるなんてっ!なんて、ステキなプレゼントなの?って俺が感動できるだろ」
「しねぇだろ」
タスクの断言にアオは海外の通販番組よりもわざとらしいとぼけ方をした。
あくまで、ステキねということにしたいらしい。
タスクは、まとまりの悪い髪を右手で押し上げながら、ため息をついた。
「しかし、そのスーツ、よく似合うな。オーダーさせた甲斐があった」
あまり日の下に出て来てはならない金銭で生計を立てている人間のような姿を鏡に写し、タスクも確かに思った。よく似合っている。それは、七五三をとうに過ぎた人間にまるで七五三みたいでよく似合うという感覚によく似ていた。
つまり、似合ってはいるが、褒められている気がしないし、嬉しくもない。
だが、制服は礼服なのだから、制服でいいのだと言い張ったタスクは、たまには着飾る姿がみてみたいといってスーツをオーダーしたアオに文句を言うわけにはいかない。言いたいことが山程あったが、少し悪意を感じても厚意は厚意だ。
「そうかい」
礼を言うわけでもなく、貶すでもなく、ただ頷いて、タスクはまだまとまらない髪を手で押さえた。
「やっぱ制服じゃ味気ねぇもんな」
そういうアオも、オーダーメイドのスーツだ。
こちらは、何処かの日の下を歩けなさそうなタスクとは違い、日常的に着こなし、また、それを機能的にも、誰もが見咎めない礼服にも魅せる姿を持っている。
そう、アオも、よく似合っていた。こちらは誰もが賛辞をのべるスマートさだ。
制服もアオが着て、意識を変えれば、アオの為だけに作った服だと言われてしまうだろう。
この場合、制服が味気ないのではない。制服を着ているタスクが、アオに比べ味気ないのだ。
「そうかい」
これにも、あくまで流すような相槌を打ち、タスクはパーティー会場を見渡した。
パーティー会場である館は、古い洋式の建物で、経年と人の手で磨き上げられた温かみと柔らかさを持ちながら、高校生の子供を祝うには少し堅い。しかし、その子供を祝う人間も、大人や大人のような顔をした子供ばかりで、タスクには逆に館の持つ柔らかさが不似合いにも見えた。
「いいだろ、此処。うちの離れじゃ一番気に入ってんだ」
タスクがどういった感想を抱いているか、おおよそ察していながらもアオはそう言った。
「お前が気に入ってるから此処なのか?」
「会場くらいワガママ言ってもバチは当たんねぇよ」
もし、タスクが招待されていなければ、学園を休んでまで参加しなければならないパーティーに、アオはワガママを言って、タスクも参加させるつもりだった。それでもアオの言葉は、パーティー会場にいる人間を見ると白々しいと言えない。
「それに、此処は冬の庭が一番いい」
そうして、遠くを眺めるアオの視線をたどると、そこには小さな窓があった。
冬に花を咲かせる木々が、小さな窓から控えめに姿を見せる様は愛らしく、また、少し色香を感じる。
それは、風景を愛でる趣味のないタスクの目でも、いいものだと思えた。
「つまんねぇパーティーでも、目が楽しいだろ」
アオの誕生パーティーは、アオのために開かれたパーティーではないと、タスクは理解した。
だからこそ、生徒会役員がアオの為にサプライズパーティーを開こうとしていることが嬉しかったのだろう。
「よくわからねぇけど」
金持ちとは縁がなく、本来ならばこの場に招かれることもない。
こうして普段は覗くことのない世界を見ていると、それこそ、何処の馬の骨と言われても文句は言えないくらいだとタスクは思う。
「おまえが気に入ってるのはわかった」
「だろ?」
振り向いて自慢げに笑う姿は、嬉しくて嬉しくて仕方ないと言っていた。
「……羨ましいくらいだ」
「ア?」
「なんでもねぇよ」



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