アオはいつでも、プラス思考だ。悪いことを考えないわけではないし、それについて悪態もつく。それでも、タスクが知る限り、アオはいつも強引なくらいのプラス思考だ。
いつもそうであるし、パーティーのことでもそうで、その上、タスクをパーティー会場に連れてくるだけ連れてきて、挨拶回りをしている今現在もそうである。
人の少ない壁の近くで立っているだけのタスクとは違い、パーティー会場で挨拶して回るアオは、時には談笑もする。純粋にこのパーティーを楽しんでいるようにも見えた。
「こんにちは」
タスクは壁際に居ても花になれそうもないが、タスクに声をかけてきた人物には随分と華やかさがあった。それは、人の波を泳ぐアオにもあり、その場の空気を、その身一つで変えるだろう花だ。
「……この度は、パーティーにお招き頂き、ありがとうございます」
「ああ。私と彼は良く似てる?」
こうして一緒に学園とは関係ないパーティーに参加していなければ、他人の空似だろうと思ったことだろう。
タスクの目の前で、静かな笑みを浮かべる人物は、挨拶回りをしているアオに良く似ていた。
「はい、とても」
学園でやりたい放題であるアオを見ていると、この目の前の人物も今は、余所行きの顔をしているのだろう。
タスクも、余所行きの社交的だと思われる笑みを浮かべた。
「今回、君を招待した、宗崎雄一(そうざきゆういち)です。……いつも、息子が迷惑をかけていないかな?」
こういわれて、迷惑をかけられているといえるほど宗崎雄一と親しくないタスクは、余所行きの笑顔を貼り付けたまま首を振る。
「いいえ、いつもお世話になりっぱなしで……」
こんなところで、息子の友人に挨拶をするような子煩悩な父親には見えない男に、タスクは当たり障りのない言葉を続けた。
宗崎雄一も、笑顔を貼り付けたまま、口を開く。
「そう?君は迷惑なんじゃないかな。男に告白されて、しかも、付きまとわれて」
何処からその話を聞いたのかも解らなければ、資産家の人間が、息子の恋路についてどう思っているかはタスクには解りかねる。
普通ではないと思うか、好きになったらそれが自然なことと思うか、感知しないか、息子の幸せが何処にあるのか、それとも跡取りということの意味を考えるのか。
多数派だからといって幸せになるというわけではないし、少数派だからといって不幸せになるわけでもない。
息子の幸せではなく、跡取りについて考えたとしたら、直系にこだわらなければ得ることが可能だ。
それでも友人としても日が浅いタスクが招待された理由を考えるなら、ほどほどにしておきなさいとかもしれない。
それこそ、現在、アオを振ってからそのままにしているタスクには、なんと言うこともできないことだ。
「……正直にお答えすると、一番大きいのは仕方ないなです」
「というと」
相変わらず読めない表情の宗崎雄一に、タスクは雄一ではなく、アオを眺めながら答える。
「迷惑なことも少なくない、呆れることも多い、でも、ご子息といるのは面白い。ほかの事はどうでもいいとまでいいません。だからこそ、仕方ない」
タスクの視界にいるアオは、タスクが誰といるか、何をしているか気がついていない。
タスクの知らない顔で笑って楽しそうに見える姿は、アオの学園での姿を知っているだけに白々しく、また、面白いとタスクは思っていた。
「……君はいい男だね。まったく持ち上げていないのに、悪い気にさせない」
現在のアオとは違う表情で楽しそうに笑った宗崎雄一に、タスクはやはり親子だなと思った。
「私としてはすべて捨てる気なら覚悟しなさいとしかいえないけれど……俺としては、なしではない、だな」
そう言って上機嫌で去っていく背中を見送り、タスクは呟く。
「そんな深い関係じゃねぇんだけど……」
タスクが心底嫌そうな顔をしたところで、漸くアオはタスクに気がつき、いつもの笑みを浮かべて手を振ってきた。
嬉しそうで楽しそうで、タスクはまた、羨ましい……仕方ないと思った。