生徒会長の恋


「じゃあ、行くか」
先ほどまで嫌そうな顔をしていた。
それを苦笑一つで消し、少しだけ仕方なさそうな顔に変え、隣に来るように促される。
古い写真のような色使いを見せる廊下が、まるで出来すぎた演出のようでアオは目を細めた。
タスクには似合わないロマンチックな光景だ。
誕生パーティーのため、実家に帰ってから数日が経つ。誘拐未遂事件の黒幕を捕まえぬまま、ついに学園での生徒会長誕生会の日を迎えた。
「……招待状、出してよかった」
「おい。もうサプライズになってねぇだろ、それ」
誘拐を企んだ犯人が捕まらない限り、風紀は生徒会長を護衛する必要がある。タスクは、この日もアオの傍にいた。
「レイが、出すのは決まってるから、俺が出したいだろうと言い出して」
「あれは、果たし状っていうんじゃねぇのか」
「そうかもしれねぇな」
アオはタスクの隣に並び、誕生会の会場となっている講堂へと、いつもよりゆっくりと歩く。
タスクも急ぐつもりはないらしく、アオの歩調に合わせてダラダラと気を抜いて歩いているようだった。
「俺が挑まねぇと、牧瀬は気になんねぇだろ」
「そんなもんかもな」
「ほらみろ、今も興味ねぇから適当言ってやがる」
何の核心にも迫らず、何の意味もない会話を楽しむことが出来るのは、幸せだ。
アオは窓から講堂の位置を確認するように視線を遠くへと向ける。遠く、声も聞こえないというのに、そこには楽しそうな生徒たちが居るような気がした。
「大体、俺が職員室を出た瞬間のあの顔どうよ。写真撮ってやろうかと思った」
「携帯、職員室前で出すとはいい根性だな」
「生徒会長は緊急連絡の関係上、持つこと許されてるっつうか、持って来てない生徒いんのかよ」
「いねぇな」
校則で校内持ち込み禁止の携帯電話が使用されていても、風紀委員は一度も取り上げたことなどない。風紀委員の一人であるタスクとてそうだ。それどころか、たまに持ち込み禁止の携帯で生徒に連絡を取らせることもある。
「ポーズだけでも持ってない顔しとくのが礼儀ってもんだろ」
「それを礼儀っていっていいものか、ちょっとわかんねぇわ」
風紀委員であっても礼儀など知らなさそうなタスクが、その言葉を使うのは少しだけ可笑しい。どんな顔をしてそんなことを言っているのかと、タスクの顔を確認しようとして、アオはあることに気がついた。
タスクの隣を歩くと、隣を見ない限りタスクをよく見ることは出来ない。
位置を間違えなければ、タスクを眺めながら歩けたのではないかとも気がついてしまった。
眺めながら歩くなら、前を歩くのは論外だ。後ろからついてくるタスクを何度も確認する自らの姿を想像するだけで、寒気がする。
ならば、タスクの後ろを歩くのはどうだろうか。それを想像して、アオは思わず苦い顔をした。
「きっもちわりぃ」
「あ?」
「なんでもねぇよ」



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