風紀委員達の休日


「で、結局、本当にサボり?」
生徒会長誕生日会の次の日は休みで、その日、珍しく部屋にいたタダシが急にタスクに話しかけてきた。その時、タスクは携帯を片手にソファに寝転び、ゲームをしていた。
携帯の画面から顔を上げることはなく、口を開いたまま、タスクは黙る。ここでタダシに事の顛末を話すべきか、それとも誤魔化しておくか少しだけ悩んだからだ。
アオは秘密にして欲しいといった風ではなく、始終騒ぎにならなければいいといった態度で通していた。それならば、タダシやクラヒト、ヘイスケに話すくらいなら大丈夫なのではないかと思えた。
ヘイスケは風紀委員長だ。いずれは話さなければならない。クラヒトも風紀副委員長なのだから同様だ。タダシは話を通しておいて悪いことにはならないと、これまでの経験と付き合いでタスクはよくわかっている。
それでも少し悩んでしまったのは、アオの誘拐未遂事件が本当の意味では終わっていないからだ。
「……誘拐未遂事件の犯人を捕まえた」
「……もしかして、会長襲われたりしちゃってたの?」
「しちまってたな」
「わーおー」
軽い声を上げ、タダシはタスクの寝転がっているソファの隣の一人用のソファに座った。
「じゃ、ヒーローのように助けた?」
「見てるやつは宗崎くらいしか居ねぇからわかんねぇわ」
タスクの答えに少し不満そうな顔をしたタダシだったが、気を取り直したように疑問を声にした。
「それで、犯人どーした?」
「学園の警備員に渡して内々に済ませるってことになったんだが」
「が?」
「一応、関係者だからと話を聞かせてもらった」
携帯をソファの前にあるローテーブルに滑らせると、ようやく身体を起き上げ、タスクは目元を揉んだ。まるで残業中のサラリーマンのような仕草だった。
「金目当てで誘拐を企んだそうだ」
「それはそれは、こんな山奥までご苦労様だねー」
タスクやタダシがいるこの学園は、山奥にある。道路はあるが、学園が休みのときにしかバスは走っていない。車を使えば行き来は自由であるが、山特有のカーブの多い道路は、誰の目からもあまり人を歓迎しているように見えなかった。
「金目当てなら、こんな山奥のリスク高めなご子息を狙わなくてもいいもんだが。私怨は絡んでないらしい。犯人は二人。最初に宗崎を襲った人間と、最後に襲った人間だそうだ」
「なーんか、納得いってないっていいたそうだね」
ソファの真ん中に深く腰掛け、タスクは緩く頷く。タダシの言うとおり、タスクは納得していなかった。
この学園内だけではなく、国内どころか世界でも名前を聞くことが出来る有数の金持ちのご子息が宗崎吾雄だ。宗崎家がアオを隠していたり、アオが末っ子であれば、また他の考えも出てきたのかもしれない。しかし、アオは宗崎家の長男で、跡取りである。跡取りだという事実を誰に隠しているということもなかった。
大きな家の跡取りともなれば、金もはずむし、警察も呼ばれないかもしれない。だが、誘拐するという行為自体のリスクも高いのだ。それこそ警察沙汰にされない代わりに、何もなかったことにされてしまう事だってあり得る。
それならば、金銭が目的だといわれるより、宗崎家の問題で狙われたと思ったほうが自然に思われた。
「宗崎家の問題なら、俺が首をつっこむ事でもなければ、納得いこうがいくまいが関係ねぇ」
「もしかしてそれ以外の可能性があるっぽいってこと?」
生徒会長の誘拐未遂という事件について、核心をつこうとしないタスクに、タダシは首を傾げる。
タスクの言うとおり、宗崎家の問題ならばタスクは、この事件について、犯人が捕まったので事件は終わったと言えばいい。いつものタスクならばそうしているはずだ。たとえ親しくしている友人だとしても、首を突っ込むようなマネをタスクはしない。
こうしてタダシに話して聞かせているということは、宗崎家の問題だと割り切ることのできない事件だとタスクが判断しているとタダシに思わせた。
「……宗崎家の問題としちゃ簡単すぎるし、もちろん本気の誘拐だとしても簡単すぎる。もしそれが何かの気を引きたいがためにやった行為だったとしても、宗崎家の介入がない。息子の誕生パーティーで色々な人間に接触できるチャンスがあったのに、だ」
「そこで解決しちゃった可能性は?」
「それならば、簡単に終わる犯人がその後にまた襲ってくる意味は?」
タダシが肩を下げ、大げさにため息までつくと、ソファに背中を預け力なく笑った。
「めんどくさそー」
「同じく。だが、とりあえず誘拐未遂事件は終わったと思っていいらしい。その代わり、誘拐事件には違う目的を持った他の人間が関わっていると思っていいかもしれない」
「……けーたくんの襲撃事件のときと同じかんじだねー」
「あるいは、井浪慶太のその前の事件……盗撮事件とも同じだ」
タスクとタダシは同時にため息をつき、各々思い思いに項垂れる。
「誰か名探偵とか呼んで来てよー……」
殺人事件が起きないのであれば、是非とも名探偵に活躍してもらいたいものだと、タダシの言葉にタスクも頷いたのだった。



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