会長襲撃事件より始まる


風紀委員の幹部と呼ばれる立場になると、自らのデスクを置くことができるようなる。
主に学内警備のような仕事が風紀委員会の仕事であるため、事務仕事のような仕事は、ある程度の『幹部』と呼ばれる人間しか任されていないためだ。
自分専用のデスクがないタスクは、今日も偉そうにソファに寝そべる。
かつては風紀委員長のデスクを持っていたが、結局そのデスクはホコリをかぶり、毎日、今寝そべっているソファでくつろいでいた。
そのソファの前にはローテーブルがあり、風紀委員長が目を通さなければならない書類はすべてそこに置かれていた。
必要な資料や道具も、そのローテーブルに置くか、キャスターのついたかごのようなものか、引き出し付きの棚に入れられていた。
そのため、タスクには風紀委員長のデスクに思い入れがない。
しかし、その風紀委員長のデスクに、風紀委員たちは思い入れがあるらしい。
未だもってホコリをかぶったまま、引き出しの一つも使われていない風紀委員長のデスクは、それでも風紀委員長の証だと思われている節があるのだ。
もうすでに後輩に譲ってしまった風紀委員長の席は、それでもなぜか、誰ひとり使うものも座るものもいない。
タスクは一つあくびをすると、ソファでの体制を変える。
外は少し寒くなってきたが、今日も風紀委員室は暖かい。
授業中であるためか、誰もいない風紀委員室で、背を丸める。コンパクトというには大きすぎるタスクでは足がはみ出てしまうため、どうもソファではうまく丸くなれない。
「委員長!」
そんな長閑で静かな風紀委員室の扉が急に音を立てて開く。
タスクは微妙な体制のまま、小さくぼやく。
「……いねぇけどっつうか、おまえだろ」
「………委員長以外が委員長だなんて考えたくないっす」
風紀委員はどうもまだ、委員長含め全員がタスクを委員長とおもっているふしがある。
「とにかく、そんなことはどうでもよくないけど、いいんすよ!委員長、裏庭でリンチっす」
「……お前らが処理しとけよっつうか、委員長だろうがおまえ」
「……だから、委員長のことは置いといて…処理といっても…ああ、とにかく、委員長、いきましょう。会長が暴れてんで…」
タスクは会長という名称を聞いた瞬間にため息をついた。
現在の生徒会会長が暴れているとなると、他の委員では手に余る。
それはもう、風紀委員会を設立してからずっと身に染みることが多々あったため解っている。
「あの野郎、いい加減落ち着くということを知らねぇのか」
「いや、委員長、あれでも落ち着いたほうっすよ。今回のは久々っす」
「じゃああれか。あの野郎が暴れるような馬鹿なことした奴がいるってことか?」
「そうっすね」
タスクは漸くソファから離れ、少しだけ衣服の乱れを直し、ローテーブルの上に置かれている腕章を手に取る。
「……それで行くんすか」
「平委員だからな」
何故かしょんぼりしている現委員長を見るとはなしに見たあと、タスクは風紀委員長室を出た。



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