漢前は憂鬱


その日も、風紀委員室の戸は乱暴に開らかれた。
いつもなら、そのまま開け放たれ、戸は勢いよく開けた人間を襲う。しかし、やはり風紀委員室の戸はアオに完敗だった。
「牧瀬襲われたってマジか!」
いつも余裕綽々でやってくるアオにしては珍しい姿だ。アオはいつになく汗をかき、開口一番そう言った。
アオは珍しく焦っていたのだ。
アオは戸から手を離さず、そのままタスクを探す。
タスクはいつも通り、ソファで寝転んでいた。
「……誰から聞いた?」
アオがタスクをみつけると、ソファの肘掛けからタスクは頭を動かす。タスクの頬には大きなシップが貼られており、その頬は腫れている。色もあまり良くない。
「お」
「お?」
「漢前になりやがって……!」
「答えになってねぇ」
無事を確認したためか、いつも通り余計なことをアオが言った。タスクはしゃべるたびに痛む頬に不機嫌そうな顔をしてるが、元気だ。余裕のある様子にアオは、安堵の息を漏らした。
「無事そうだな」
「そこそこな」
「てめぇこそなんだ、その、そこそこ」
自分自身が質問に答えていないことを棚上げし、アオはタスクのいるソファまで歩く。風紀委員会室中の視線を集め、無視し歩く姿は、威風堂々としている。
それをタスクはいつも、偉そうと称した。
タスクはそんな視線を独り占めできるアオさえ無視し、頭を膝掛けに戻す。
「……怪我してるし、だりぃ」
「だりぃのはてめぇ、いつもだろうが」
その通りだった。しかしタスクが怪我をしているのも事実だ。
アオもいつも通りソファの近くで座り込み、無事を確認するようにタスクの頬に触れた。
「いてぇ?」
「いてぇ」
タスクが痛みで不愉快そうな顔をする。だが、痛いというわりにタスクの態度は痛みを堪えるそれでも、痛みを訴えるそれでもない。
アオは頬をつまんだ。
「なぁ、いてぇ?」
「いてぇっつってんのに、お前は鬼か」
顔を覗き込み、アオはタスクの反応を確認した。タスクの顔は相変わらず不快さや不機嫌さしか見つからない。
「おかしい、平気そうに見える」
「いてぇから」
眉間に出来た谷間も、いつも通りであり、アオはタスクの頬をつまんだまま首を傾げた。
「まぁ、いい。いてぇっていっても、これは耐えられる」
「なら、そこまでじゃねぇの」
「さぁな。それより、誰に聞いたんだ、俺が襲われたって」
とうとうアオはタスクの頬から手を離し、タスクの反応によってか、聞いた相手を思い出したからか、不満そうな顔をする。
「……椋原先輩だ」



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