生徒会役員になると、役員である証を身につけることになっている。
それが、生徒会は校章のとなりの生徒会章…という名のバッチだ。
そのバッチに似たようなものが風紀委員会にも存在する。
それが腕章である。
ただ、その腕章は入りたての平委員か、校内見回りの実動員であると分かりやすく付けるものであって、急に招集がかかった人間がつけるものではないのだ。
風紀委員が普段から持ち歩いているのは腕章ではなく、一枚の金属プレートだ。
縦三センチ、横一センチの小さなプレートなのだが、これには穴が空いており、たいていのものはボールチェーンに通しネックレスにして携帯している。
そのプレートをもっていれば風紀委員の証となるため、ネックレスだけではなくブレスレットやピアス、携帯ストラップ、はたまたただポケットに入れていることだってある。
しかし、それが『幹部』と呼ばれる人間になると事情が違ってくる。
その幹部に見合う石が入った純銀製のプレートが渡されるのだ。
その中でも特別であるのは委員長がつく三人…風紀副委員長ふたりと風紀委員長だ。
風紀副委員長は指輪。どうやって身に付けるか、また、ポケットに入れるかは自由なのだが純銀製の半貴石つきの指輪をポケットにいれるのは流石に厳しいということから、前期の風紀副委員長の一人はネックレスに通して下げていたし、今期も副委員長である一人は携帯ストラップにしてある。
風紀委員長はそれよりさらに特別扱いで、ついている石は貴石で、形状も特殊。あまり人前に出すことのなかったそれは、実は毎日人目に触れる形であった。
昔はタスクのものであったのだが、委員長交代時に気軽に後輩に渡してしまったため、タスクには今、風紀委員たる証がない。
そうなると腕章を付けるしかない。
暗い色の制服につけるのによく目立つ赤い腕章を腕につけることなくポケットに詰め込んだまま、タスクは裏庭の乱闘に割ってはいる。
会長がひとりで暴れているようにみえるそれは、どちらが悪いと判別がつき難い。
会長が、非常に楽しそうな顔をしているためだ。
全体を見ると、多対一で、会長の後方に被害者と思しき人物がいるために会長ではない連中が悪いのだろうと判断できるのだが、タスクはため息を付くしかない。
タスクは息を一度はいてから、吸い込む。
はっきりと、怒鳴り声にならない程度に声を張り上げる。
「風紀だ」
その声は乱闘をしている一部の人間に届いたのだろう。
やばいという顔をして、逃げようとした。
それを逃す風紀委員ではない。
タスクはついつい癖で顎をしゃくる。
それだけで、傍らにいた風紀委員長が喜んで動く。
これで捕まえ逃しはない。
しかし、問題は、声だけで逃げる賢い小物ではない。
どうしようもなく馬鹿な大物たちが問題なのだ。
「声かけくらいじゃ、とまんねぇか」
ため息しかつけないタスクは、乱闘の中に割り込む。
まずはひとり、外側にいる生徒の肩を掴み、そのまま引っ張る。
それで勢いをつけ、乱闘の真っ只中に飛び込むと、タスクは姿勢を低くして、足元を狙う。
人間は二本の足で立っている。
一本ではバランスがとりにくいし、足に何かがあればバランスを崩す。
人より身長が高い方であるタスクの足は長い。
少々低めのローキックを密集していたふたりほどに叩き落し、その叩き落とした足を地面につけると軸にして、半回転、その向かい側へと足を叩き落とす。
無事両足を地面に下ろすと、乱闘で誰に殴りかかっているかも分かっていない一人の腹に一撃拳をいれ、さらに膝も入れる。
これですでに四人。



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