登校するなりタダシとクラヒトに風紀委員室に押し込められたタスクには、時間があった。
考えるにはいい時間を貰ったと思い、タスクはいつものソファに横になる。
一応、昨日も時間はあった。
しかし、教室に行く前に風紀委員室に寄ると、ヘイスケがタスクを見て吠えて走り出しそうになり、それを押さえ込むのに苦労したため、何かを考えてる間を逃してしまったのだ。その上、風紀委員室に居ると、次から次へと風紀委員がやってきて吠えたり叫んだり、無言で殴りこみに行こうとする委員が現れた。終いには生徒会長まで飛び込んで来てしまい、タスクは本当に考える時間がなかったのだ。
だから、タスクは今日こそはぼんやりと考えようと風紀委員室に行く前に教室に行こうとした。しかし、タダシとクラヒトに見つかってしまい、風紀委員室で大人しくしていなさいと言われてしまったのである。
ならば、登校しなければよかったのかもしれない。だが大人しく寮の部屋に居たら居たで、怪我をしたタスクに見舞いだといって、理事長が訪ねてきたり、風紀委員たちが部屋から出て来れない怪我だと嘆くので、タスクには寮の部屋に戻るという選択はなかった。
今朝も、とっかえひっかえやってくる風紀委員達のお陰で、ソファに横になっている暇もないほどで、クラヒトが笑いながら圧力をかけ、タスク以外を風紀委員室から追い出し、教室に行ったくらいだ。
「派手な怪我なんてするもんじゃねぇな」
この待遇に、苦笑こそすれ、悪い気がするわけでもないタスクは、一息ついて思考を切り替える。
瞼を閉じ、外の情報を閉じると、まずここ最近起こったことを思い返した。
まず、井浪慶太がアオを襲う。
その次に、アオが誘拐されかけた。
その次は、アオが襲われ、つい先日タスクも襲われる。
最近起こった事件はこの四つだ。
この四つには目立つ特徴がそれぞれ見られる。
ケイタの事件の特筆すべき点は、監視カメラだ。ケイタはアオを直接ではないが襲い、生徒会室の監視カメラをハッキングしてアオの様子を窺っていた。ハッキングした監視カメラでアオの様子を窺うという一学生には手が込みすぎている技術を披露したというのに、ケイタ自身は非常に簡単に捕まる。
アオが誘拐されかけた事件は、外部の人間がしたことだった。アオの超人的な運動神経と体術、タスクの活躍により宗崎家に知られることもなく、学園で騒がれることもなくあっけなく終わる。
そして、つい最近アオを襲ったのは学園内の人間で、タスクのファンだとされる生徒だった。何故かその事件の間、外部の人間が一回アオを襲っている。これは未だに理由がはっきりしていない。タスクのファンが襲い掛かった件については、アオが食堂で煽ることにより犯人の一人をあぶり出す。これにより、最初に捕まえた犯人が自供し、主犯も捕まえることに成功した。
最後に、タスクと樫が襲われる。この犯人は捕まえることが出来なかった。しかし、襲いたかったのはタスクだろうと思われる。
タスクが襲われた件と、アオが誘拐犯以外の外部の人間に襲われたこと以外は、一応の決着がついていた。そのどれもがあっけなく終わり、何らかのおかしな点を残している。
ケイタの件ならば、監視カメラのハッキングだ。ケイタはハッキングソフトを貰ったといっており、第三者の介入がはっきりしている。
アオが誘拐されかけた件は、誘拐されかけること自体がおかしかった。この学園は外部の人間をやすやすと通すほどの警備を敷いていない。しかし、もし、学園内部の人間が手引きをしたとすれば別だ。学園の敷地内侵入は難しくなくなる。そうなると、ここにも学園内に第三者がいる可能性があるのだ。
アオがタスクファンに襲われたことについては、すべてタスクファンで閉じた事件であるようでありながら、噂話というきな臭い要素が、第三者の影を見せる。事件の主犯格である生徒も、最初にアオを襲った生徒も、噂だと言ったが、何かに怯えていた。
すべてに共通項があるとすれば、第三者が居るような気がするということと、大それたことをする割には計画性が乏しく、おざなりであるということだ。
まるで結果などどうでもよく、行動すること、飛び出すこと、気を向けさせることを目的としているようでさえある。
しかし、それらは第三者がいるとして、その第三者が共通しておりすべての事件がその第三者が起こしたものであると仮定した場合、怪しいと思えることだ。
すべてがなんら関係のない事柄で、ただ連続したに過ぎないのなら、思い過ごしということになる。
ここまで考えて、タスクは瞼を開く。
携帯がポケットの中で震えたからだ。
その内震えも止まるだろうと思われたが、携帯はいつまでも震え続けた。
タスクは仕方なしに、携帯を手に取る。
タダシからの電話だった。
「お前、学内で携帯堂々と使うとは偉くなったもんだな」
『堂々としてないよ、トイレの個室だよ!』
タスクは風紀委員室の壁掛け時計を見る。もうすぐ昼休みも終わろうという時間だ。
タスクたちに付き合って派手な格好をし、風紀委員をしているタダシであるが、根はタスクにビクビクしていた頃と変わりない。授業も真面目に受けており、天気がよかったり眠かったりすると、授業を受けないこともあるタスクとは違う。休み時間が終わりかけてもタダシが電話をかけてくるのは、大事な用があるということである。
「じゃあ、お前、今頃、教室であらぬ疑いかけられてるな」
『うんこくらいするでしょ。小学生じゃないんだから、学園の便所でうんこしたくらいで騒がないでよってそうじゃないでしょ!』
それでもいつも通りタスクが話しかければ、いつも通りのこたえが返って来た。タダシには意外と余裕があるとタスクは判断し、用事を尋ねる。
「で、なんだ?」
『タスクがおかしな話したのに、ひどくない?うんまぁ、あとにするけど。昼休みに、クラヒトとけーたくんを囲んだんだけど』
「恐喝か」
『人聞き悪いこと言わないでよ、タスクじゃないんだから。とにかく、けーたくんとお話したんだけど、生徒会室がね、特殊なんだって』
お前も負けず劣らず悪いことを言っている。そう指摘しようとしたタスクは、続いた言葉に眉をしかめた。
「はぁ?」
『生徒会室の警備システムは生徒会役員が作ったもので、けーたくんは生徒会室のカメラにしかハッキングできないって』
タスクは何故かもやもやとした気分で、タダシの言葉を聞く。違和感に似たそれを、ここのところ何回か感じているような気がして、タスクは自らの記憶を探る。
いつ感じたのか、誰に感じたのか。
「……誰が作ったんだ?」
探りながらも、問う。返ってきた答えに、タスクは一つ、同じものを見つけ出す。
『……会計だってさ』
「許可出させるからクラヒトと井浪連れて来い」