タスクは会長と暴れている四人が、タスクに気がついていないことを幸いに足を引掛けにかかる。
一人は簡単に足をかけることができ、バランスを崩したあと、横なぎに蹴り飛ばしておく。
それで漸くタスクに気がついた連中の一人がタスクに殴りかかる前に、タスクは動いた。
あご下に一発。
フラフラとしている相手を再び蹴っていると、会長が残りのふたりを片付けているところだった。
会長の目がタスクを捉える。
タスクはその目をみて、再びため息をつきたい気分になった。
タスクを見ているようで見ていない。乱闘の興奮冷めやらない様子である。
会長にはよくあることであるし、これがあるせいで、風紀委員の誰もがこの会長に太刀打ちできず、タスクが呼び出される理由であるのだ。
「宗崎」
「あ?」
返事は一応したのでいいほうだろう。
しかし、タスクがタスクであるということに気がついていないようであるし、警戒を解いてはもらえない。
仕方なくタスクは、わざとらしく口角を上げる。
「来いよ」
会長…アオの眉間に皺が寄った。
どうやらタスクのものいいが気に入らなかったようだ。
何も言わず、アオは地面を蹴った。
アオは上から下へと叩き潰すように足を振り下ろす。
それを半歩横にずれて避けたあと、大きく一歩踏み出し、タスクはアオの背中を思い切り叩く。
それは痛そうな音が響いた。
アオは前方に少しよろめいたあと、背中を叩いた勢いで少し離れてアオの方に向いていたタスクに振り返り、しばらく目を白黒させたあと、瞬きをした。
「………わりぃ」
「そう思うんなら、暴れんな」
バツ悪そうに謝ってくる、正気にもどったアオに一言告げて、ひと仕事終えたとタスクは身体を伸ばした。
「ところで、何があったんだ?」
「ああ、ちょっとケツ狙われた」
「ああ、ケツ…って、ケツ?」
よくよく見ればアオの服装は乱れていた。
乱闘では服に掴みかかることなどもよくあることなので、タスクもあまり気にしてはしなかったのだが、地面と仲良くなれそうもないアオの服が泥で汚れている風であるのも、そのせいなのかもしれない。
「危うくロストバージンだ」
そう言って笑うアオに、タスクは盛大にため息をついた。
「委員長」
そう言っても振り返るどころか気がつきもしない委員長に舌打ちすると、タスクは後輩の名前を言い直す。
「亘理(わたり)」
「ハイッ」
名前を呼ばれると嬉しそうに振り返った後輩に、やれやれといった気分でタスクは続けた。
「俺は少々そこな会長のアフターケアしておくから、現場よろしく」
「ハイ!委員長!!」
「…ちげーっつってんだろ、それはお前がしっかりしとけ」
不満そうな後輩を無視して、タスクはアオの腕を握ると何も言わずに保健室へと連れて行く。
「怖いとかは?」
「ざっけんな、ってかんじだ」
「背中にどろまでつけてお前なぁ…。お前の方こそ、ざけんなよ」
「……いんだよ、お前、きたし」
「味方がきてもわかんねぇくらい興奮状態になってたのにか?本当、面倒くせぇからキレんな。きれねぇほうが無理かもしれねぇけどな、今日のは」
「…悪」
「別に、今日は謝らせたいわけじゃねぇよ」
あまり職務に熱心ではない保健医がいない保健室は、今日もガランとしている。
案の定机の上に用事があるのなら呼んでくれという旨が書かれた紙がのっていた。
保健室の椅子にアオを座らせると、タスクは保健室の戸の鍵を閉め、カーテンを締めた。
「で、男に襲われた感想は?」
ひどい質問であった。
だが、アオにはそれくらいがちょうどよかった。
「……最低だった…」
椅子に座ったまま項垂れたアオのそばに寄らず、タスクは適当な椅子に座る。
「落ち着くまではいてやるよ」
「何様だよ」
「さぁな。とりあえず、大人しくあまえとけよ」
「…おう」