真剣な顔をしてメールをしている時は、大抵、雅からのメールだ。
ぼんやりと友人を眺めながら、俺はその友人を待った。
「わりぃ、帰りのなしにしてくれ」
「…ああ、雅なら仕方ない」
「は、なん」
「イイヨナァ、雅マメだもんナァー」
友人の言葉に被せて態とらしく言ってみて、携帯を確認するフリをする。
確認せずとも恋人からメールが来ないことは解っている。確か、今日は『バイトのシフト交代でガッポガッポ』と言っていた。おそらく、バイト先の誰かが休んで代わりにシフトに入るというだけの話だろう。働いた分だけ時給はもらえるため、ガッポガッポという話なのだろうが、俺としてはつまらない。
「なんで、高雅院だって」
「いや、顔を見れば解る。…それより、まだ『高雅院』なのか?」
「……ほっておけ」
俺は恋人と違う大学に通っている。
恋人は、俺の行きたい学部がない大学をわざわざ選び抜いてくれた。大学がわりと近い場所にあるのは、俺の執念といっていい。
しかし、友人の選択は意外だった。
俺と同じ大学ではなく雅と同じ大学…恋人と同じ大学に行くものだと思っていた。
恋人の通う大学には、雅だけでなく、友人…トノの親友も通っているはずだ。
恋人の通う大学にもトノが希望した学科はあったはずだが、何故この大学にしたのだろう。
理由は至って普通のことだった。
『どうしても、この大学の師事したい人がいた』
雅が大学に入学した時にやってきた特別講師は、今年は特別講師どころか、この大学に教授として招かれていた。
特別講習や、必修科目以外の履修科目なら、他の大学の生徒でも受けられたのだが、必修科目となってしまっては難しい。
しかも人気の教授となっては抽選人数からして他所とは違う。
そうして、トノは悩み抜いてこの大学に入学した。
俺は結局、恋人との同棲を無理矢理こぎつけた。
そして、雅にしたら同棲くらいのつもりでもトノにとっては同居ということになっている。
「いい加減、雅って呼んでやれよ、雅も待ってるだろ」
「い…や、それは…どうだろう…」
「どうだろうじゃなくて、そうなんだよ。さっさと呼び捨てとけ」
「あー…おいおい」
そうして、その追々とやらが成人式後にやってきたあたりが、トノらしいなと恋人…晃二と、トノの親友、省吾とため息をついた。
トノに呼び捨てておけといったのは、大学一年の頃だったはず、だがな。