那須、テメェ、そこになおれ!


モノクロ同好会という怪しい同好会に入った結果、友人とチェスをしている授業の合間。
「え、恋人いるの?」
特に驚いた様子もなく、友人が確認するように尋ねてきた。
俺は頷きながら、白いポーンを動かす。
「恋人という名の下僕が…」
「はーん、なるほど」
友人は黒のナイトを動かして、うんうんと頷いた。その頷きは恋人がいるということになのか、下僕がいるということになのか、小一時間問い詰めたい気分になったが、友人のことだ、下僕がいるということに対しての頷きなのだろう。
「お前のほうこそ、どうなん?」
「ん。いるよ。すんごぉーくかわいくて、愛おしぃーい恋人が」
可哀想に、その恋人は苦労しているだろう。
隠しもせず楽しそうにいやらしい笑みを浮かべた友人は、性格が悪い。
俺の性格の悪さに付き合って申し分ないくらいなのだから、間違いない。しかし、悪い友人ではない。
俺も友人も性格が悪いだけなのだ。
「なるほど」
俺が白のクイーンを動かすと、友人が更に笑みを深めた。
「チェック」
白のキングは追い詰められていた。
「戦績はー?」
「7‐3」
「どっちが七?」
「お前……いわせんでもわかっとうやろ」
「身の程を知ってもらおうと思って」
実にいやらしい性格である。俺はモノクロ同好会に相応しくないカラフルさで責め立ててくる友人に、少し渋い顔をしてみせる。
「なんや、年上の余裕っちゅうんかなぁ」
「いやいや、結果は見えてるから」
「やーだって、オセロは俺のが勝率ええで」
「まぁ…そういうこともあるよね!」
いやいや、そういうことだから。
俺と友人は顔を見合わせたあと、生温い笑みを浮かべる。
そんなに頑張って張り合うつもりは、俺も友人も毛頭ない。
「で、恋人ってどんなの?」
「四歳くらい年下の可愛かっこいい真面目っ子」
「市橋面食いだもんなー。それ、いい子っぽい」
俺の下僕はヤンキーであっても真面目男であるため、友人のいうことは間違っていない。俺にはもったいないと河上さんちの朔也くんによく言われている。
「那須の方は?」
「んー外見はかっこいいんじゃね?俺に従順でありながら、こう…うん、難しい。さっちゃん呼び出したのが早いか」
「は?」
友人…那須晃二がどこかに電話をかけると、この二十分後、バイクにのったカッコイイ赤毛の兄ちゃんが大学にやってきた。
「男かよ!」
思わずつっこんだ俺の恋人も男であることは後ほどカミングアウトした。
いや、ホント、似た者同士の友人だな。
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