口づけせよとはやしたて


「しょーごー」
「あん?」
「キス」
「あー…」
ガバっと抱きつかれたと思ったら、背後より酔っ払いがキスを求めてきた。
俺もまんざらじゃないというか、酔っ払っている。自覚がある。
普段ならキスをしようという気にもならない相手と振り向いてキスをした。
「れんも」
既にベロベロによっているのだと思う。
絡みぐせが出てきたあたりで、アウトであるというのに、止める人間が居なかった。
俺も古城もそいつより先に酔っていたからだ。
一人だけ酔っていないのは可哀想だろうと酒を勧めた。
その結果がこのグダグダからみつき、人にキスを強請る殿白河伊周だ。
俺に抱きついたまま、古城に振り返ったトノに古城がキスをする。
長い。
たとえ酔っていなくてもしてくれるというのなら、したいようにする。
それが古城蓮という男だ。
「れんてくにしゃん」
そういって古城から離れたトノは余裕綽々だ。古城が気だるげに俺を見ているが、どちらが勝ったのかということは酒が回った頭で判断が難しい。
「鬼怒川ァ…」
古城もかなり酔っていた。
トノをはさんで俺に抱きつくと、性的な目で俺を睨みつけた。
おそらく一番酔っ払っていないのは俺だ。
「おまえら、キスしねーの?」
グダグダでただの酔っ払いのトノは、サンドイッチ状態だといのに、キスコールをしている。
してもいいけどお前、あてられるぞ?
忠告してやるまえに、古城がきた。
古城、他人を挟んでいるというのにやる気とは。
古城が離れる頃、漸くトノが俺から離れて、何故か部屋の隅で携帯をいじっている。
なんだ、こんな深夜にホームシックか?と思って様子を伺っていると、電話をかけ始めた。
「……みやび?あのな。さびしい。しょーごとれんがいちゃいちゃする。おれもいちゃいちゃしたい」
今日は飲む予定だと話しておいたから、あとで合流することになっていた高雅院雅はすっかり出来上がっているトノに電話口で呻いたことだろう。もうすでに遅いのか。と。
普段いいそうもないことをポンポン電話口で言われてさぞ悔しいことだろうと思う。
キスしたい、していい?といって通話口にリップ音とか、酔っていなければしない。
酔っ払いとはなんと質の悪いものなのだろか。
もし、ここに何処かの派手な男がいたらえらいことになっていたに違いないが、今日はハメを外した三人の男だけしかいない。なんとも花のないことである。
古城が調子にのってひとの身体にキスをし始めたので、俺はため息をつきながら、トノを呼ぶ。
「古城がその気だから3Pすっぞー」
「ああ、それもいいな」
「さんぴーとか。おれはみやびのだっつう」
もちろん、俺も古城も冗談である。やるというのなら、うん、まぁ。
やっていただろうが。
だがトノは割と本気で話している。
「はやくこいよ」
って、切られたらほんとたまらねぇだろな、高雅院。
ぜぇはぁ言いながら、高雅院がたどり着く頃には、古城が台所でトノをひっつけながら黙々と料理作っていたし、俺に至ってはソファーで船をこいでいたんだから、高雅院もそりゃあ、言うよな。
「たちワリィ」
そのあとぐでんぐでんのトノが走ってきて、高雅院に抱きつきキスをねだったんだが、酔っ払いに対処するのが面倒だったのか、大人しくしてほしかったのか、嫉妬だったのか。
長く続いたキスは、こちらの酔いをさますようなえらいリアルなAV仕様だった。
トノはぼんやりして高雅院にすがりついていることしかできない様子で、俺は目をこすりながら頷く。
「お土産にどうぞ」
いや、酔っ払っていた上に、眠かった。そう、それだけだ。
高雅院は遠くないトノと高雅院のマンションへとため息をつきつつ帰っていった。
翌日、俺が頭を抱えて二日酔いと戦っていると、トノがケロッとした顔で言ったものだ。
「なぁ、昨日、なんか気分よかったんだけど、ある一定から記憶ねぇんだけど」
憎らしいやつである。
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