マイン


「なぁ、これ、なんなんだ?」
「さぁな」
おっさんの髭面に猫耳とは、誰の得になるというのだろう。
「なぁ、俺、疲れて帰ってきて、寝て、起きて、鏡見たらこれってひどくねぇ?」
取り付けられた猫耳を引っ張りながら聞いてみると、俺に猫耳をつけた犯人は笑った。
「わりと真剣におもしれぇわ」
俺の聞いたことには答える気がないらしい。
「おい、にゃんって言ってみろよ」
「…………にゃん」
「おっさん、似合わねぇー」
犯人は笑いながら、俺についた尻尾を引っ張り始めた。
猫耳と同じなら、現在、茶と黒がまばらになっている俺の髪色に合わせた、大変毛ざわりのいいものだろう。
「お前も同じ年だろうが」
「俺とお前じゃ、面構えがちげぇんだよ、エロ面」
犯人の言うとおり、俺と犯人は面構えが違う。俺は年をとっていいように言えばワイルドな、悪く言えばおっさんの不精面。
方や犯人の顔は俺と同じ年であるはずなのに、高校時代より磨きのかかったチンピラフェイス。眉間に寄せられる皺はもはやセクシーの領域だと思わないとやっていられないほど、威圧してくる。もはや、チンピラからもう1ランクアップしていた。何か癪なので俺はあくまで、チンピラ面だと思うことにしている。
「まぁ、その面エロイよな。相変わらず、公共猥褻だ」
失礼なことを言ってくれているのは、たぶん犯人の特殊な趣味のせいだ。
親友にも似たようなことを言われているが、髭面のときは汚ねぇの一言だから、そうなのだと思う。
「さて、にゃんこは俺にご奉仕しろよ」
「ア?」
「先日の賭け麻雀の」
自然と嫌な顔が出来たことだろう。
ビリは一位のいうことを何でもきくという賭けだった。友人の企みにより、俺は見事ビリになり、犯人は一位。
それを忙しいからと避けていたら、これだ。
朝には、猫耳。尻尾を引っ張りながらご命令。
「ナァ、省吾」
俺に付けられた尻尾だというのに、ぐるぐると尻尾の先を回している。
歩いている時、いやに、足に何か当たると思っていたが、キャットテールは長かったようだ。
機嫌良さそうな顔をした犯人は本当はそうでもないらしく、俺の名前を呼んでくれた。
犯人、古城が俺の名前を呼ぶときは大抵不機嫌なときである。
「……にゃあ」
俺は諦めてないて頷くしかない。
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