最凶。


あ、アイツかわいそうだな。が、その人の第一印象。
うるせぇ、邪魔くせぇ、めんどくせぇ。
そんなやつがやってきて数日。
用務課の人間を異常に見かけるようになっていた頃。そいつは、割れた電灯を片付けにやってきた。
この頃には何かが壊れ、誰かがやってくるというのはよくあることになっていたが、その日やってきた奴は他の誰とも違っていた。
まず、モノが壊れると確実にやってくる清掃員の態度が違った。
いつもどおり声を掛け合う姿は結束力も素晴らしいと言われる用務課なら当然のことであったが、いつもとは違い、安心しきった態度、信頼の視線、そして気を引き締め直すその姿。
ここの所疲れ切っていた彼らにはない輝きがあったように思う。
次に、ヤツの態度が違った。
いつもなら見ることもないだろう用務課の一人に、ヤツが目をむけ、いつもどおり名前を聞いた。
一度も声をかけたことなどなかったのに。
その時は何事もなかったかのように、すべてがおわった。
次にそいつを見かけたのはしばらくたってからだった。
第二印象は、すごい。
仕事をてきぱきとこなしながら、そいつを見つけたヤツを流す姿はさすがとしかいいようがなかった。
こっち向いて聞けよ!といわれ、勤務中なのでと断り、休憩しようぜ!といわれ、交替でとっているので勝手はできない。と言った。
当然のことを当然のように返しているのに、ますますつっかかってくるヤツにそいつはいった。
「めんどくせぇ坊っちゃんだな。あんたのためなら喜んで休憩して管をまいて、一緒に遊び惚けて、仕事もせずに、給料だけはもらっておきます。とでも言えばいいのか?とんだ給料泥棒だな。真面目でも照れでもなんでもねぇっつの。仕事やんなきゃ食えねぇし、俺が仕事放棄して困んのは俺だけじゃねぇの。こうやってあんたとしゃべってる間に俺のまわりへの印象がどんどんかわって首になっちまう可能性だってあんだよ。あー…めんどくせぇ。もういい、めんどくせぇ。」
そういったそいつは、やけに力の強いヤツの腕を振り払い、食って掛かるヤツなど無視をして、おってくるヤツを取り巻きに押しつけた。
その現場を俺と一緒に見ていた三年の先輩であり、元生徒会長である人が急いで携帯電話を取り出した。
「閂(カンヌキ)、急いで時田(トキタ)を止めろ!上条さんが三回も面倒臭いつって、生徒に敬語崩した!」
どうやら、あいつは上条というらしい…ということより、閂、時田という名前に俺は眉間に皺を寄せる。
「先輩、閂さんと時田さんっていったい何が…?」
「緊急事態なんだよ!おまえ、会長だろ?あそこにいる生徒会連中止めてこい!上条さんに、あの態度はまずい…!閂が時田を止めてもとまらないものがある…!」
始終俺様と言われた前会長がこれほどあわてるのは見たことがなかった俺は、急いでバカどもを止めにいく。
後に、用務課整備班班長にして、用務課代表、上条久弥について知ったことは、最凶だということだった。
不良の憧れ、今はもうなく、伝説でしか語られないチームのリーダーをつとめ、解散した今でも、顎で伝説の人々を使える人間であった。そんなことは本人いわく面倒なのでしないのだが、勝手に動いてくれる才能を無駄遣いするメンバーがいる。
さらに一年前、時田枢(トキタカナメ)というこれもまた、伝説になりかけている不良の憧れのチームの副リーダーの恋人になった。彼が心底『面倒』がることを、時田は排除することに余念がない。
そしてそんな連中を抱えた上条久弥本人もまた、面倒だといって放棄さえしなければ、非常に優秀で、身内には情に厚い面もある。
彼らが排除しようと決めたものでできなかったものは一つもない。
というのが、三年生の間でまことしやかにささやかれる新たな伝説らしい。
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