その高さ、15センチ。前の厚みは3センチ。ピンヒールのブーティは黒地のエナメル。編み上げがハードさを思わせる。
背中はざっくりと開き、そこにくもの巣をかけ、手を何処から出していいか迷う袖は穴あきであるにもかかわらず指よりも長い。
腰を強制するどころか内蔵が凹むのではないだろうかと思われるコルセットを締め上げ、ロングスカートであるにもかかわらず、サイドがざっくりと開いたラップスカートに、これもまた足をみせるためとしか思えないつくりのアシンメトリーのオーガンジーのパニエ。動くたびに足が見えるが、その足も、大柄のレース地のタイツで飾られ、たまに肌を遮って見えるのはおそらく、ガーターベルトだ。
全身黒ずくめの彼は、歩きにくいヒールに苦戦をしながら、隣を見た。
暗い顔をした友人の風紀委員長は、絵にかいたようなエロいピンクナース服をこれまたヒールの高さを疑うピンヒールのサイハイブーツつきで着用。こちらも編み上げがしつこい。
なぜかカルテ風の何かと注射器をもっている姿はかわいそうとしか言いようがない。
そして似合っていないので、さらにかわいそうである。
「…男らしい、姿だな…」
思わず彼が友人の似合わぬナース姿にポツリと零した。
そう、風紀委員長は男でしかなかった。
「オマエは遺憾なく似合ってるって意味でもこえぇけど、メイクが威嚇してこえぇよ」
彼はそう、よく似合っていた。
目の周りはこれでもかと黒く、睫毛は刺さるほど長いなっていた。
真っ黒の鬘を被り、目の下は黒い中にもほの青いラインを交え、既に性別を超越しているようにすら見えた。
唇は生きてるうちは着色しない限りならないだろう、黒い色が塗られていた。
鬘に取り付けられたヘッドドレスは重たいばかりで華美。黒い羽と全体的に暗い色合いの花とビーズが飾られていた。
「睫毛が目に刺さりそうで、つれぇえ」
そして、誰が見てもこれが殿白河伊周だと思う人間はいないほどだった。
…それこそ、男らしいナースが隣にいなければ、誰も気がつかないほど。
「トノ会長かわいそー」
「そういう藍次はよく似合ってるな」
ふわりと膨らんだピンクのスカート。何枚も何枚もかさねられたパニエ。少し派手に動くと見えるかぼちゃパンツまでフリルが満載。
胸元は少々あきぎみで、パフスリーブはリボンで絞られている。
会計の藍次は衣装と同じような色合いのステッキをもって、腕を組み、遠くを見詰めた。
「嬉しくないなぁ…」
魔法少女がそこには存在した。
実際のところ少女というには育ちすぎており、さらにいうと、似合ってはいるが少女らしさは皆無であり、胸元は少し見苦しいくらいであった。
そろいもそろって何をやっているのだろうと、遠くを見るほかない三人に、グラウンドはなぜか熱狂していた。
藍ちゃん抱かせてー!かわいいさいこー!
風紀委員長早く脱いでください!
今すぐ僕を生贄にしてください!
などという言葉が飛び交った。
仮装リレーが始まり、走りきったときには、ピンヒールを投げ捨てようとしていた彼が居た上に、おとことして何か大事なものを失った気がする会計と風紀委員長がいた。
だが、そのあとすぐに入った昼休憩には、既に通常通りになった三人を見て惜しむ人間すらいたという。