鬼と夏休み。


古城とおかしな関係になってすぐ、夏休みは始まった。
事務所につれていく前から古城とはおかしな関係ではあったが、事務所につれていってからはさらにおかしくなった。
寮では互いに目をあわせると挨拶をするのに、学校では会っても見向きもしない。
至って普通な相部屋の人間のようであったが、不意に思い出したように夜這したりされたりするのはおかしいし、飯が朝から晩までデザート付きで出てくるのはさらにおかしい。
恋人というには味気なく、友人というには接触部分が少ない気もする。
噂のとおりの関係が俺と古城にあったのなら、これほどおかしなことはない。
ただ、俺は古城が気に入っているし、相性は悪くない。
この関係もおかしいが気に入ってはいる。
堂々と菓子類を冷蔵庫に入れてもいいし、冷蔵庫に知らない菓子があっても、特定の場所に入っていれば食ってもいいことになっているし。
朝起きるといつ用意したかわからん朝食は用意してあるし。弁当もそこにある。
朝から菓子パンがある毎日は非常になんというか。
ぐっとくるものがある。
昼の弁当はすでに恒例化してしまって、誰が作っているのか知らない風紀の連中は弁当からおかずを奪っていき、親しい生徒会長には奇特な目で見られる。噂は一人歩きし、風紀委員長の謎の恋人は美化された。
今や弁当を作っている古城は大和撫子のぱっちりした目を持つ色白の健気なお嬢様である。
急に部屋に押し入ってきてベッドに人を押し倒し、人の腹筋なぞって笑う奴が大和撫子とは知らなかった。
最近はヘソまわりがごひいきらしい。
その前は乳首にご執心だったが。
置いておく。
晩はトノとのこともあり、連絡を取ってあったりなかったりなのだが。 その連絡をとるため、アドレスを知ったのがある意味進展と言えただろうか。
そんなこんなで日々はすぎ、夏休みだ。
あれだけさぼった授業も計算済みでさぼったらしくうまいこと補習もまぬがれ、元気よく誘われたリゾート行きも『バイト』と無難に断ったらしい。
リゾートと言えば俺も殿白河家恒例の夏期集中語学留学に行くことになっていた。
金銭はほとんど殿白河家持ちという、なんとも贅沢なご学友となっている。実は大変、殿白河家のご当主とその秘書官に好かれており、いろいろなところに連れまわされる。
始終次期当主のトノもついてまわっているのだが、あの男は秘書官に絡まれる俺を一度も助けたことがない。
いい加減、有能なくせに人にセクハラをはたらくことをやめないだろうか、あの秘書官。
考えるのをやめる。
語学留学という名のバカンス接待以外はだいたい学校で残った仕事とやらをしなければならないし、秋の行事に備えなければならない。
ついでに選択補習にも参加して、実家に帰宅できるのは数えるほど。
当然のように、古城とは会うことはないのだが、あの飯もスイーツも新学期までオアズケとは惜しいもんだ。
「…シュークリーム」
「……リクエスト?」
「おー」
「あー…まぁ、次の機会」
まぁ、だからやっちまったてのはある。
それで次の機会が楽しみなのだから、だいたいそれでいい。
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