もやもやとした気持ちのまま、俺は手当たり次第ケーキを作った。
店長には非常に喜ばれたが、若干眠い。一部、もって帰る許可を得て、寮にもって帰って、鬼怒川に突き出す。
鬼怒川はワケがわからないという顔をして、次々とタッパーをあける。
シュークリームのタッパーをあけた瞬間に、鬼怒川が止まった。
ひいてんのか?とおもって、その様子を眺めていると、鬼怒川はどんどんタッパーを空けていった。
全部あけた鬼怒川は驚きの表情で俺を見ていた。ドン引き、だろうか。
そう思っていると、やつは俺に噛み付いて、いわく。
「これは礼にならねぇか?」
だ。
ならない。
ならないが、ドン引きはしていない。ニヤリと笑った鬼怒川は嬉しそうで、やべぇ、してぇな。と思ったときには、やつに押し倒されていた。
久々のやつも、俺も。
がっついて明日のことなんか考えず、ソレこそ獣みたいに貪って、気がつくと時計がおかしな時間をさしていた。
「腹減ったな…」
といいながら、俺と風呂から出てケーキのタッパーしっかり冷蔵庫に入れて、欲しいものだけ皿のうえにのせてきた男のなんと憎らしいことか。
「なぁ、このケーキ、全部お前が作った?」
俺は共同スペースのソファーにダラッと座っているだけの体力しかなく、当然だと頷いてやる。喘がされて、声もガラガラだ。
…実は、店長が作ったケーキも交ざっている。
もちろん、今、皿にのっているケーキにも。
鬼怒川は何も言わないで、何も飲まないで、いつも通り豪快にケーキを四つ、ペロリだった。…よく気持ち悪くならねぇなぁ。
「どれが、好きだ?」
かすっかすの声で聞いたが、鬼怒川には理解できたようで、鬼怒川は一度首を傾げたあと、ああ、と頷いた。
「どれも好きだが。そうだな、特にはオペラ」
それは店長が作ったケーキだ。
「馴染んだ味は、そのほかのケーキで、その中では洋梨の」
味の違いがわかる男ってやつは厄介だ。
その馴染んだ味は俺の作ったケーキだった。
「…正解?」
どうやら、俺が作っていないものが混じっていることに勘付いていたらしい。
「…るせぇ」
店長の作ったものが一番だといったことには、いささかショックであったが、それが本音なのだとわかるから、悔しいやら嬉しいやら。
「で、礼は何がいい?」
「…暫くどこのお取り寄せも買い食いもするな。俺のだけ食ってろ」
引き寄せてわざわざ耳元で言った俺に、笑う鬼怒川。
「プロポーズか?」
「てめぇになんざわざわざしねぇえ」
「ああ、そう」
自分で言いながら、なんとなく納得した。
なるほど、鬼怒川にはプロポーズする必要はない。
俺は自分自身の感情に確信を持ちながら、鼻で笑ってやった。
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