しかし、副会長はしつこかった。
一通り生徒会の人間を着信拒否したにもかかわらず、今は風紀委員を追いかけているらしい。
彼の携帯に風紀委員長から着信拒否するか、電源を落とせとのメールが来るくらいのしつこさだった。
高雅院の隣にいるにもかかわらず、もしかして本当に何か会長本人にしかできない用事でもできたのかと思うほどだ。
彼も生徒会長という責任ある立場だ。
誰から電話がかかってきても、しつこく震える携帯に一度は通話ボタンを押す。
何度聞いても、会長でなくてもできる…同じ内容ばかり言う副会長に、もう、溜息しか出ない。
高雅院は隣で溜息をつく彼を見ながら、一度目の着信拒否をしてからずっと電話について黙っていたのだが、風紀委員長からの電話が来たとき、ついに横から再び、彼の携帯を奪った。
「副会長はそんなにしつこいのか?」
『…っと、高雅院会長…違うか。高雅院さんですか?今も追われて、かくれんぼ中です』
「ちょっと楽しそうだな」
『いえ、ぜんぜん。セロファンに無駄に生クリームついてもったいない思いをしろと思う程度には憎らしいです』
「…お疲れだな」
『ええ』
「そうか、では、そちらにチカを帰すから、副会長にはそう、伝えてくれ」
『は…い?いや、あまりにもそれは、トノが…』
「帰すから」
本当にこれは高雅院なのだろうか?
彼は今まで高雅院にやられたことのない行為を二度されて、先程よりも強く、疑問を覚える。
疑問を覚えつつも高雅院の言葉に、ただでさえ気分が落ちていた彼はみるみるうちに意気消沈した。高雅院は、彼の頭に手を載せて少しかき回すと、彼に微笑んだ。
『はい…とりあえず、伝えてはおきます』
「よろしく頼む」
『帰す』という言葉を繰り返して寂しく思いながらも、頭を撫でられ微笑まれるという状態に喜ぶという複雑な心持ちで、彼は通話を切られた携帯を受け取った。
「チカ、すまないが、文化祭は明日、楽しんでくれるか?」
「明日?」
「そう、文化祭は二日間ある。明日、楽しもう。…そのかわり、今日は帰ろう」
明日の約束をしてくれることは嬉しいのだが、『帰る』という言葉にやはり彼は寂しさを感じる。片想いでもいいから、好きでいると一度振られたときに伝えたが、想いの違いが如実に現れているようで、辛い。
彼が何かをいう前に、高雅院は自分自身の携帯を取り出し、どこかに電話を始めた。
「今日は、無理そうだ。ああ、明日はやるから。頼む」
そういうと、高雅院は一度通話を切って、今度は別のところに電話をかけた。
「十夜?今日、こっちに旦那様が無理を言ってヘリで来てるだろ?ちょっと乗ってもいいか?あ、旦那様、お近くにいらしたんですか。はい、はい。理由…メールでまとめても?ダメですか。そうですね…片をつけに。いえ、殴り込みじゃないですから。たぶん」
何がなんだか解らないまま、高雅院が電話をしているのなら聞いてはいけないと少し距離をとり、彼は唇も読まないようにと、辺りを見渡す。
高雅院を見ていては内容が気になるに決まっているからと、彼は文化祭で賑わっている街を眺めることしたのだ。
「まぁ、一言でいうと、愛、ですよ」
だから、まさかそんなことが言われていようとは夢にも思っていなかった。
「チカ」
いくら、まわりに気を向けていても高雅院に名前を呼ばれて、反応できない彼ではない。
彼はすぐ、振り返った。
「帰ろうか」
「…帰らなければならねぇか?」
すっかり気が落ち込んでしまった彼に、高雅院は少し困ったような顔をした。
「悪いな」
明日もあるんだ、明日は何の邪魔もされないのだ。と、思おうとするも上手く気分を上げることができない彼の気分を上昇させるのは、やはりいつも高雅院雅だ。
「俺と一緒に、白鴬へ帰ろう」