白鶯学園は山の中にある。
下山するためにはバスに乗らなければならない。
学園のために駅と学園を往復している本数の少ないバスに乗って駅につくと、これもまた学園のためだけに設置したのだろう駅からやはり本数の少ない各駅停車の電車に乗って、途中の駅で快速にのる。
そこから出ている快速からさらに乗り継ぎを二回ほどして、彼は高雅院雅の在籍している学園へとやっとたどり着く。
特急などもあるのだが、彼は金持ちの学校に行っている割には控えめな小遣いを貰っていて、どうしてもわりと頻繁に高雅院に会いたいがために、買いたいものを我慢して途中までの定期を作ってしまった。というくらいであるのだから、特急料金など往復払えるわけもない。
とにかく、白鶯学園は辺鄙な、しかも人を拒否したかのような山の上にあり、土地だけは余している。
金持ちの趣味なのか、乗り物酔いをする生徒のためなのか。それとも、理由はまともで、こんな辺鄙な場所では急患が出た場合、手遅れになってはならないと思ってか、専用ヘリポートまであるのだ。
残念ながら、一度乗るだけで彼のお小遣いが何年分とられるかわからないほどの紙幣をださなければ、いや、現金で持ち歩くのは危険なほど払わなければならないのだから、あまり使い勝手のいい交通手段とは言い難い。
しかしながら、スピードにおいては優秀なものがある。
空に信号もなければ道路もなく、最短距離を行ったり来たりできるためだ。
しかも、そこにヘリがあり、燃料に問題がなくパイロットがいるのなら、他の空路とかぶらず、周囲に騒音を巻くことすら気にしないでいいのなら自由に飛んでいくことができる。
ヘリが飛び立った学園がある街はお祭り騒ぎで、ヘリがとぼうが、気球がとぼうが、飛行船が飛んでいこうがお祭り騒ぎの一部にしかならない。
もちろん、武装ヘリなどという物騒なヘリでない限りは、だが。
水城家の当主が乗ってきたヘリは武装していないどころか、街のお祭り騒ぎを反映したかのようなヘリであったため、問題がなく、しかも水城家の当主により話がつけられていたため、白鶯学園に降りることもまったく問題とされてなかった。
学園の生徒は一様に空を見上げそれなりに驚いたようであったが、何か要人でもきたのだろう。と、呑気に思うことによってすぐにヘリの存在なんて忘れた。
高雅院はヘリの運転手に礼を言って、先に降りて、ぼんやりしている彼に手を向ける。
バスや小さな船、大きな船でも海が荒れるとたちまち乗り物酔いを起こしてしまうにも関わらず、初ヘリが高雅院と一緒という理由と、ヘリの大きさの問題でいつになく密着して座ったことが原因で、酔いがどこかに行ってしまった彼は、その手を前に首を傾げた。
まだ、彼は現状についていけていないのだ。
「自分で降りれるか」
ヘリが一度エンジンを切ったため、普通の大きさでも聞こえるその声を聞きながら、その手が、少しどころかかなり浮ついていて、ヘリどころか、慣れ親しんでいる学園の玄関口にある低く短い階段すら踏み外してしまいそうなほどぼんやりとした自分自身に向けられていると気がついて、彼は、顔を紅潮させた。
高雅院に女性に対する心遣いのようなものをされてしまったことにたいして照れたのではなく、自分自身の状態を恥じたのだ。
「大丈夫だ」
といって、彼は足元をみて、しっかりと地面におりた。
「それは残念」
高雅院も意地の悪いことをいうな。と思ったが、ちょっと手を握れなかったことが残念だったと彼は心の隅で思いもした。
低俗な自分自身を内心、鼻で笑い、彼は高雅院に礼を言って歩き出した。
すこし、彼から離れた高雅院がポツリと呟いた。
「そのままつないでいくのは無理があったか」
そんなことが起これば赤面どころの話ではなかったのだが。