生徒会長に飯を食わせる。
グラタンと煮込みハンバーグというなんともこってりしたメニューだったのだが、嫌いなものもなかったようで、すんなり食べてもらえた。
と思っていたら、鬼怒川が会長が帰る前に会長を見て笑っていた。
もしかしたら、嫌いなものがあったのかもしれない。
「会長、なんか嫌いなものでもあったのか?」
会長が帰ったあと、鬼怒川が笑った。
「グリンピースが嫌いなんだよ」
そう思えば煮込みハンバーグに彩り程度に入れたような気がする。
「会長、意外と子供のようなものを…」
「あいつ、レーズンも嫌いだからな」
「その二つ、結構大きくなっても好んで食べないやつ多いもんだな」
ちなみに。
鬼怒川が嫌いなものは、メロン味の菓子と、つぶになってるコーンだ。
二人とも似たようなものである。
しかも、鬼怒川がメロン味が嫌いな理由が、メロンの味じゃない。ということらしい。あと、粒になっているコーンは食べづらい。最後にのこる。という理由だけで好きではないらしい。スプーンと缶づめをセットで渡すと、黙々と食っていることから箸やフォークで食べるのが嫌いらしい。本当に食べづらさだけできらいだと判断しているようだ。
メロン味の菓子にしてもメロンの味が本当にメロンらしければ好きだというのだから、微妙な偏食である。
「古城」
「…なんだ?」
「なんで俺の友人なら別にっつったんだ?」
今まで、調理することを秘密にしてきた。
偶然にも鬼怒川にはスイーツを作ることになり、飯を作ることになった。
けれど、これ以上知られようとは思っていなかった。
いなかったのだが、鬼怒川に聞かれた時に、気がつくと答えていたのだ。別に、と。
会ってみるとそれが会長で、驚きはしたが調理ができることがバレてもまったく気にならなかった。
「別に。理由がいるか?」
あるとしたら、鬼怒川省吾本人だ。
鬼怒川省吾という人間の認める友人というやつに会いたかったし、紹介されたかったのかもしれない。
そう、ただそれだけなのだ。
「そうだな。なくてもいいが、あったら嬉しい」
「へぇ。どんな風に?」
「…いや、普通に?」
「てめぇこそ、聞かれても答えねぇだろ、普段。なんで一応俺にきいた?」
「…自慢の大和撫子紹介したかったんでね」
おそらく、聞いた相手が会長でなかったら聞こうとも思わなかっただろう。あと一人、ニ人、そういう友人が鬼怒川にはいるが、一番最初はなんにせよ会長になっただろう。
それこそ、自慢したかったのかもしれない。だが、今回のことはおそらく友人の中で一番、会長を大事にしているからだ。
そんな一番大事にしている友人を紹介してもらえたのに、調子に乗って、うっかり晩飯ふるまったとか俺もどうかしている。
普段ならしない行為だ。
「てめぇこそ、飯まで振舞ったとか、ごきげんじゃねぇの?」
「ご機嫌はご機嫌だな」
それは認める。
俺は今、非常に気分がいい。
紹介されたという事実が、ここまで俺を特別扱いなのだという気分にさせるとは思ってもいなかった。
だが、気分がいい。
「そう思えば、てめぇの甘党、会長知ってんのか?」
「言ってねぇけど…ま、時間の問題だろうよ」
問い詰めたりはしねぇと思うけど。
鬼怒川がそう言って、会長が去っていったドアのを見た。
深刻になるようなことでもない。
鬼怒川のイメージなど会長相手には瑣末な問題なのだろう。
少し悔しいのは気のせいだと思いたいものだ。