体育祭だった。
古城をトノに紹介してしばらくたった。
学園の体育祭準備をしているさなか気合が足りなかったのか根回しが足りなかったのか。運悪く色物競技を二つ、くじ引きで当ててしまったために、色物競技にでなければならなかった。
午前最後を飾る競技、仮装リレー。
俺の衣装は無駄にエロいピンクナース。ただでさえ短いスカートであるにも関わらず後ろにスリットが入っており、ツーピースではなくワンピース。しかもブーツはサイハイブーツとはやりをとりいれてあり、女が着用すればさぞ、美味しいうえにエロかったろうに。と思える代物だった。
しかし、着たのは俺だった。
残念なことに、俺だった。
リレー後、衣装は着用した人間にプレゼントされることになっている。
そして、今、俺の目の前にはそれが鎮座している。
「言い訳はあるか?」
「…言い訳?」
「てめぇのせいで、ピンドンパラダイスとかいうひでぇ…いや、思い出したくもねぇ」
「…いや、ないというか…テメェ、借り物競争のとき協力しなかった上に、それ着てた時、笑いすぎて死にかけてたじゃねぇか。仕返ししたってバチはあたんねぇよ」
「お釣りがでんだよ、あれにいれられたら!」
「…ほー」
ほんのり蛍光ピンク色に染まったジャージ。未だ頭髪につく蛍光ピンク色のネバネバした何か。
腹部にはオレンジ色の派手な、やはり蛍光色のインク。
一応、ピンドンパラダイスの内容は聞いている。これでも風紀委員長だ。用務課の責任者である上条さんから、今年は悲惨だからと、内容を教えてもらっていたのだ。
まず、ゲストに問題を出題してもらいそれを全てクリアできたら、ゴールに向かうことができる。
一つでもクリアできなかった場合、ピンドンパラダイス…このときはまだ名前がなかったのだが、ゲストに来ていた別の学園の会長がピンドンパラダイスと名づけて門まで作ってくれていた。
そのピンドンパラダイスは、簡単にいうと仕掛け付きの迷宮だ。
ちなみに、ゴールはない。
仕掛けにはまり、ひどい目にあって落とし穴に落ちるまで辛い思いをしなければならない酷い迷宮である。
落とし穴に落ちた場合、蛍光ピンクのローションにまみれながら、皆同じ場所にたどり着くという、微妙なスライダーが作られていた。
迷宮の仕掛けは様々で、主要である落とし穴は各所にもうけられ、わかり易いのからわかりにくもの、引っ掛けまである。それらをかいくぐる人間をペイント弾、もしくはカラーボールで狙われ、生クリームのパイが飛んできたり、突風がふいてきたり、金だらいがおちてきたりと、ノリはお笑いなのだが、やっている側としては真剣である。
特に、ペイント弾を持った整備班の班長は狙ったものを泳がせたり、追い詰めたりと、それはもうやりたい放題でストレス解消をしたらしい。
カラーボール投げられた連中はまだいい方だ。
「カラーボールでよかったじゃねぇか」
「てめぇ…内容知ってて放りだしたのか…?」
カラーボールはまだしも、蛍光色のいかがわしいと思う前に目が死んでしまうようなローションの中をスライダーしてしまった古城は、俺の前に鎮座した衣装を指さした。
「着てもらおうか」
「いや、なんかなくなるから、遠慮する」
古城の手には、おもちゃの手錠。
古城の友人である筧が、仮想リレーで婦警さんになっていたことを思い出す。嫌な予感しか、しない。
「着ろ」
「だから遠慮…」
俺が言葉を最後まで言う前に、古城が俺を睨みつける。
さすが、学園の一匹狼。
しかし、俺も風紀委員長だ。動じない。
古城が俺の左腕を捉える。
もちろん逃げたのだが、古城が早かった。
そのあとの行動も迅速で、こちらが振り払う前に、押し倒され、俺の左手は手錠でつながれ、さらにその手錠は机の足に繋がれる。
「おいッ…!」
手錠は意外と重い。
これ、おもちゃのはず…だよな?
「このワンピース、後ろにチャックあんだろ?下からも着れるよなぁ?」
「……何をしたいんだ…?」
「この、エロくてうすいナース服を着せて、惨めな思いをさせながら、男のプライドへし折ってやろうと思って」
精神的にくる仕返しできやがった。
俺は足を動かす。
さすがに反射神経がいい。俺の足を手で捉え、古城は笑った。
「ちゃんと、足を拘束するために紐も持ってきた」
「って、それ、ハチマキじゃねぇか」
「記念品まみれて体育祭らしくていいじゃねぇか、鬼怒川」
よかねぇよ!