「せっかくだし、殿白河も着るといい」
ニヤニヤといやらしく笑った男と、大量の衣装を前に、彼は嫌そうな顔をした。
誰がいようとためらいなく服を脱ぎ、早着替えしてしまった高雅院は、今現在中世ヨーロッパ風の騎士服にメガネというコスプレをしていた。
「家庭教師の真似事だけをする予定だったんだがな」
「家庭教師の真似事だけじゃつまんないだろって言われたんで、用意してみた」
悪い笑みをはりつけた男、那須龍哉はその姿の高雅院をデジカメに収めた。
その写真は欲しいと思いながらも、本人を前にいうことができない彼は、衣装を睨みつけるしかなかった。
「嫌なら、しなくていいんだぞ?でもなぁ…雅も見たいだろうナァ…殿白河のコスプレ」
「……そんなわけが」
眉間に皺を寄せ、そんなわけがないと言い切ろうとした彼を止めたのは高雅院だった。
「せっかくだし、見たいけどな。嫌なら、やめておいたほうが」
彼の眉間の皺はあっという間になくなり、代わりに眉が下がる。
「…わかり易いな」
「…可愛いだろ」
「ノロケか?」
「さぁ?普段飽きるほど聞かされている仕返しかもしれないな」
などと、高雅院と那須がこっそり話をしているなどと知らず、彼は本気で悩んだ。
悩んで悩んだ。
着るか否かではない。
似合うか、似合わざるか、だ。
「大丈夫、高雅院もお色直しが何回かあるから、その時一緒に着替えればいいから、好きなものきれば」
「悩むようなら、テイストでも合わせるか?」
からかうようにそう言った高雅院は、少しだけ衣装の束を眺めたあと、的確に一着を引き抜いた。
「このあたり」
高雅院が騎士服ならば、彼のために取り出されたその服は王侯貴族のそれと思えた。
高価な感じがしたのだ。
「……い、いや、もうちょっと控えめで」
と彼が遠慮したのはわけがある。
華美だからではない。
似合わないから、でもない。
高雅院よりも位が上そうに見える。というのが嫌だったのだ。
しかし、彼よりも高雅院雅は強かった。
「あなた様が着てくださらないのなら、私は何を着ればいいのですか、マイロード」
まさかのセリフに、袖口に口付けるような仕草までついて、彼は既にどうすればいいのか自分自身で判断できなくなっていた。
「もうパンクしたな」
「雅も質が悪い」
「そうでもない」
笑いながら、衣装を彼に手渡す。
彼は訳がわからないまま、衣装を着た。
気が付けば椅子の上に座って、勉強を教える高雅院をぼんやり眺めていたというもったいない時間の過ごし方をしてしまった。
このあと、二回着替えをしたのだが、その二回とも高雅院にうまいこと乗せられて、彼はその次にホストスーツ。最後に着物を着ていた。
それでも大方幸せだったのだから、いい休日といえたのかもしれない。
帰寮後、パソコンを見て、各種ツーショットと高雅院ワンショットが送られていたため興奮のあまり椅子に足をぶつけて、無言で悶えたのは、悶えた彼自身しかしらない。