「チカ、悪いな、結局一緒に回れそうにない」
彼は首を横に振る。
高雅院雅はすごかった。
手伝い始めるやいなや手馴れた様子で資料を分け、各役員がやるべき資料をより分けたあと、雑務といわれる類の仕事をこなしてしまい、果ては暇を持て余し片付けまで手伝い、生徒会室はあっという間にきれいになった。
だけでなく、いつも副会長だけが使っている簡易キッチンで、日本茶からコーヒーまで一通り用意した。
お菓子まで購買で購入してきたという徹底ぶりで、休憩までしっかり取らされた。
終わった先から雑務は奪われ、資料の提出や搜索もテキパキとやってしまい、生徒会メンツは唖然としたものだ。
やることがなくなると、高雅院は一つあくびをしてベッド借りるな?というと、仮眠室のベッドで寝てしまった。
彼は始終いろいろな誘惑にそわそわしたが、そわそわしているだけでは仕事が終わらないどころか、高雅院に見損なわれても困る。と、誘惑に負けることなく仕事をした。
おかげで一日くらい彼が抜けても大丈夫なくらいにはなっていた。
流石にヘリで帰るということはしなかった高雅院は、翌朝彼と一緒に文化祭に参加することになった。
その日の晩は、白鶯の寮の客室に泊まることになった高雅院であったが、朝、彼を尋ねると、疲れていたらしく準備が出来ておらず、眠そうにぼんやりしていた。
高雅院はその様子に笑って、ただ『おはよう』と言った。
彼は一気に覚醒して、夢かな…高雅院がいる。と思っていたのを思い直した。
ゆめだけど、夢じゃなかった。
そして、長い距離を高雅院と揺られ揺られて、今日も隣に高雅院がいることを噛み締めながら、何を話していいやらわからなくなりながら、再びお祭り騒ぎの街に戻ってきた。
すると、タイミングを計ったかのように電話が震えた。
高雅院はそれをとって、しばらく何事か話すと、苦笑した。
そして、彼は首を横に振ったのだ。
高雅院と一緒に文化祭を見て歩けないのは確かに彼にとって残念なことではあったのだが、回れなかった理由は彼の方にあるのだから仕方ない。むしろ、あんな遠いところまで付き合ってくれて、彼は嬉しかった。
「晃二あたりがイベントごとが終われば暇だと思うんだが」
「…高雅院がなんかやってんの見ちゃ、ダメか?」
おそらく、昨日やるはずだったことを今日と変わってもらった結果、彼と文化祭を回ることができなくなったのだろう。
彼はそう推測してそういった。
「……いや、いいが、つまらないぞ?」
彼はまた首を振る。
高雅院と一緒にいられて、時間があっという間にすぎることはあっても、暇をするなどないことだと、彼は思っていたからだ。
「文化祭の、出店だよな?見てる」
「出店…出店、なのか、な?」
歯切れの悪い高雅院をみて、彼は首を傾げた。