最凶と親衛隊長。


行動範囲が狭いような広いような。
そんな人の親衛隊隊長になって、随分経つ。
かっこよくて、ちゃらちゃらしていて、不良で、フラッとどっか行っていつの間にか戻ってきてるような人で。
楽しくないことは出来るだけしないし、うざいと思うこと、面倒くさいと思うことは流すか無視するかどっちか。
仲がいいのは憂愁の君と呼ばれる人で、その人の親衛隊に顔を見せてからかって遊んでいる。
それが、我らが親衛対象、時田様だ。
時田様は、ある時、恋をされた。
学園の整備を任されている人で、名前は上条久弥様。いつも整備班御用達のブルーグレーの服をきっちり着込み、それと揃いの帽子を目深にかぶっている人だ。
綺麗とかカッコイイとかいわれることのない人を、時田様はかっこいいといい、いつの間にかよくフニャフニャになっている。
メロメロといっても差支えはないのだが、あれはフニャフニャだというのが親衛隊内での見解だ。
時田様がどうしてあれだけフニャフニャになってしまうのか。それを考えるために、親衛隊は、上条久弥様を観察した。
上条様は、面倒臭がりだ。
整備の仕事は真面目にしているのだが、それ以外はモノグサもいいところだ。
部屋にものは少ないが、出したら出しっぱなしだ。
ゴミはゴミ箱に捨てるし、使った食器は流し台に置く。しかし、使った食器は次に使用するときまで水につけることはあっても洗いはしない。
服は洗濯カゴにいれるのだが、そろそろ替えがなくなってきたなと思うまで洗濯はしない。
そして、出しっぱなしたもので部屋が散らかってくると、片付けずにものを捨てる。
雑誌の類で散らかることが多いので、そんなものかもしれない。
服自体もあまり多くもっていなし、もういいかと思うとすぐに捨ててしまうから、服で散らかるということもあまりない。
CDなどは出し入れが面倒くさいとか、いくら探しても聞きたいものが出てこないとか、そういうのもあってか、最近ではダウンロード購入をしているらしい。
口座から引き落とされるってシステムは結構楽だって理由でカード愛用者であるし、面倒だからという理由でポイントカードは作らないけど、断るのさえ面倒になったら、ポイントは貯めっぱなし。
面倒だと言って、食事を簡易栄養食で済ませることも多々あって、それを見かねて誰かが喜んで弁当を作ってきたり、学園の食堂の料理長が昼飯を与えたりもしている。
一人にしておいたらもしかしたら生きていけないのではないだろうか。
そう思わせる人だ。
だから、そんな人と一緒にいる時田様に不安を覚えて、上条様にお話を伺うのは当然の運びだ。
「その…上条様を、見てきたのですが」
「ああ、最近妙にちょろちょろしてるなと思ったら」
「ええ、はい…その、見てきたのですが…その、とても、不安で…」
上条様を見ていれば、時田様も見ることになる。
それこそ、フニャフニャになってしまうくらい、上条様を溺愛している時田様に不安も覚えてしまうくらい。その上、上条様は時田様をお好きなのかと疑うくらい。
「時田様のことなので、私どもが何か口を挟むことではないと、重々承知してはいるのですが…」
「不安にもなるわなぁ…こんな適当な、しかもどう見たって時田のことを好きなように見えない男が相手じゃ」
「すみません」
上条様は、その時、お笑いになりました。
余裕の笑みでした。
「残念ながら、手放す気はまったくない。アレがいないとつまらないんでな」
その言葉は、余裕で、なんだか愛してるって言われるよりすごい説得力で、俺は顔を赤くしたものです。
惚気けられた気分でした。
そのあと、時田様にちょっと怒られてしまいましたが、得るものはあったと、俺は思うのです。
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