一年って長く続いてる方。
飽きっぽくて、新しいものが好き。
本気を見せるのがカッコ悪いと思ってて、遊べなくなったらいらなくなる。
楽しくないものは好きじゃないし、不安要素はさっさと消す。
一年経っても同じ感情を向けられるどころか、ますます重症。
飽きるどころか深みにはまって、新しいものが近づくことを厭う。
本気を見せると嫌われると思っていて、遊んでるふうを見せかけながら怯えてる。
楽しいなんて思ってられる?不安しかないじゃない。
会えない日は寂しくて、会えた日は舞い上がる。
地に足つかない毎日は、前と同じように不安定に見えてまったく違う。
そんなものが必要なの?
「あの子変わった」
「そりゃ変わるだろ」
「気に入らない」
「どっちが?」
俺が首を傾げると、糸杉(いとすぎ)がため息をついた。
「聞かなくてもわかりそうなものでしょ」
「はっきりさせてぇんだよ」
旧校舎のある人物のサボり場。
ここから眺めるのにはちょうどの位置にあるそれ。
教職になんて興味はないのに、可愛い可愛い後輩を構うためにとった教職課程。
後輩に挨拶すると、久しぶりなのが嬉しいのか楽しいのか、可愛くおしゃべりしてくれた。
好きな人がいるとか、恋人できたとか、ねぇ、それ、俺にとって必要ない。
ちょっと憎らしくなって、ちょぴり嫉妬したっていってもいいんじゃないかな。
昔からおいたが過ぎる生徒として名を馳せていた俺は、一緒に実習にやってきた糸杉も巻き込んで情報収集を行なった。
おいたが過ぎるだけあって、いかがわしい繋がりのある先生は俺のことをよく覚えてくれていたよ。
俺の可愛い後輩。
可愛い可愛い後輩。
愛でて愛でて、一度も叱りつけたことなんてない後輩。
「あの子は変わっても可愛いじゃない」
「じゃあ、上条久弥か」
「そうだね」
上条久弥。
ちょっとした有名人。
けれど過去の人でしょう?
過去の人はあくまで過去の人。
今は仲間も散り散り。おうちも資産家とかいうわけではない。
ただ、家を潰すという脅しも効かない。だって、彼の一家は離散しているし、母親も父親もとうに鬼籍に入ってる。彼の上にも下にも兄弟姉妹はいない。
親戚一同は彼のことを知らないし、彼自身が知っていても思い入れはないだろう。
まるで一人で生まれて一人で育ったみたいな顔をした人。
高校の途中までは彼にも家族らしいものはあったけれど、彼は家族というものと少し縁遠いらしい。その家族ももう亡くなって結構たつ。
それだけ見ると一人ぼっちで寂しそうだけれど。
彼は常に一人では無かった。今は散り散りになっている仲間がいたし、現在も可愛い後輩が傍にいる。
一人で生きていけるような顔をして、けして一人になることはない。
もし、彼が一人になったなら、彼は生きていないだろう。
何事も面倒腐がる彼は、生きることさえ面倒くさそうだ。
「ねぇ、ちょっと嫌がらせをしたっていいと思わない?」
「いい加減落ち着けよ」
「やだよ」
糸杉がまたため息をついた。
「いいでしょ」
「別に。ただ、伝説の人はやっぱり伝説だぞ?」
「ふふ…俺だって伝説の人だよ?」