彼が振られたのは、春休み前だった。
彼が高雅院雅に告白したのが、春休み前だったからだ。
それというのも、高雅院がその前から、少しずつ少しずつ彼に釘を打ってきたからだ。それは丁寧で、少し遠まわし。お前が俺を好きでも付き合うことはないんだよと。少しずつ、形を変え、希望を失わせる。高雅院ほど、酷い男もいないなとその時の彼は思っていたし、今も少し思っている。そういう形を望んだのだし、そうであって欲しかったから現状がある。
何もできないうちに気持ちを殺される事を、その時の彼は厭った。
だから、彼は高雅院にその気持ちを告げたのだ。
そして、高雅院は止めをさした。
彼はそれでも諦めないし、諦められないといった。
今となっては、なんと馬鹿なことをしたのだろうと思う。
だが、そうしていなければ、今のこの状態もないのだろうと思うと、馬鹿でもやってよかったとも思う。
結局、何が正解で、何が一番か今の彼には解らない。
ただ増える一方のフォルダの中身を眺め、買うか否かを悩むだけで二週間を無駄にしようとしている。
それだけはハッキリしている。
「なぁ、どうしたらいいと思う?」
これ以上パソコンの画面を見つめていても仕方ない。とパソコンの電源を落として、彼は友人に振り向いた。
「買っちまえばいいじゃねぇか、さっさと」
友人の一人である風紀委員長、鬼怒川は彼の親衛隊がくれた甘そうなドーナツを表に裏にとひっくり返して眺めて、それに齧り付く。
その傍らで真剣にドーナツに挟まった具をドーナツを割って眺めていた、最近彼の友人となった古城がドーナツをもとに戻し、鬼怒川に頷いた。
「渡すかどうかは置いておいて、買えばいい」
二人のいうことは間違えていない。そう、買えばいい。
お気に入りの高雅院クリスマスプレゼントのフォルダに突っ込まれたサイトにいれたどれかを買えば、彼は思い切れる…はずだ。
「何買えばいいかわからん」
「なんでそう…高雅院が関わるとそうなんだ、お前は…」
あっという間にドーナツを食べてしまった鬼怒川は、1リットルペットボトルを煽った。
烏龍茶のはいったそれを、なんの断りもなく、古城が横から奪って飲んだ。
友人より恋人、恋人より夫婦。夫婦より空気みたいな関係になっている友人たちは、招かれた部屋でも変わらぬ様子だ。
「クリスマスプレゼントとか、邪魔になんねぇもんやりゃあいいだろ。嗜好品とかまた悩むだろうから、文具あたりにしとけ」
「……当たり障りねぇもんな、そのくらいだよな」
万年筆ならばピンからキリであろうが、『使う』という点においてはシャープペンシルやボールペンのほうが使うだろう。
高雅院の進路にもよるのだが、シャーペンはまだしも、ボールペンを使わないということはない。
だが、それだけにボールペンはいろいろな人間からもらう。
それこそ入学祝いから卒業祝いまで、シャチハタつきボールペンというものは定番だ。
そして、ボールペンはインクがなかなかなくなるようなものではない。
では、どうすればいいのか。
「ボールペンとか万年筆じゃなぁ…」
悩む彼に、解決の糸口を与えたのは以外にも古城だった。
「定期入れだとか、ペンケースだとかにしておけばいいんじゃねぇの」
ドーナツの中身を確認して、鼻で笑った男のいうことにしては、名案だった。
「外身か!」
「外身…いや、まぁ、外身だがな…」
身も蓋もない言い方をする彼に、鬼怒川が眉を下げた。彼の前では珍しくもない光景だ。
「言い方に問題とかあんのかよ」
彼はもう一度パソコンの電源をつけた。
今、この流れで購入ボタンを押してしまわないと再び悩んでしまうことを知っているからだ。
「いや、好きなように呼べばいいと思うが」
「ご不満みたいだな」
彼が何かいうより先に、古城が鼻で笑った。
なんとも鼻で笑うという行為が似合う男である。彼は、少し友人をとられたような気分になったものの、そんなことより高雅院へのプレゼントが大事だった。
その日、彼はパスケースを買った。
三営業日以内に届けてくれるそうだ。
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