トノと雅。


朝、なんとなく携帯を見て、彼はすぐに目が覚めた。
メール着信、高雅院雅。
携帯に踊るその文字に、彼は朝から気分が落ち着かない。
内容はさらに彼を浮かれさせるもので、今日会えないだろうか?というものだった。
起きてすぐだが、返信は簡潔に、すぐさま送った。
もちろん、大丈夫だと。
高雅院に会える。彼はクローゼットの中を物色しながら、ちらりと机を見る。
それは、三、四日前。彼がプレゼントをしまった机だ。
もうクリスマスはすぎている。
しかし、一日過ぎたところで、学校があったからといえば済むことだ。少し遅れてしまったところで問題はない。
彼はクローゼットに視線を戻し、机の中のものを気にしないことにした。
遅くなったから意味がないと、彼は思わない。
思わないが、それでもタイミングを逃してしまったのには違いない。
誕生日のときがそうであったように、クリスマスプレゼントも、なんだかんだと渡せないのだろう。
ジーンズを履きながら、彼はそう結論に至った。
携帯が何時にどこでいいだろうかということを聞いてくるのに、二つ返事で答えて、彼は少し気もそぞろに服を着た。
クローゼットに備え付けられている鏡には、いつもどおりの彼がいたが、少し浮かない顔をしているのは、今日も渡せないプレゼントのせいだろう。
今から出たら十分間に合うどころか余裕すぎて待つことになる時間ではあるのだが、さっさと街に出てしまって気晴らしでもしようと思い、彼は身支度を急ぐ。
そんな中、部屋のチャイムがなった。
面倒くさそうに、彼が部屋のドアを開けるとそこには鬼怒川が立っていた。
「朝っぱらからなんだ?」
「…おまえこそ、朝っぱらから…ああ、高雅院に会うのか?」
朝から外出すると言わんばかりの、しかも少し気合がはいった服を彼が着ているときは大概そうだ。
「そうだが、それが?」
ドアを開けた状態のまま、堂々と宣言する彼は、いつもどおりだが、鬼怒川は手に持っていた彼あてに届いた荷物を渡しながら、眉間に皺を寄せる。
「その割には…まぁ、いい。とりあえず、それ開けてからいけや。…あと、おおかたどっかに片付けたプレゼントも、もってけよ。じゃあな」
あっさり彼の前から立ち去った鬼怒川に渡された荷物の送り主は、高雅院雅。
どうやら鬼怒川は、彼に届いた荷物を持ってきてくれたらしい。
彼はその荷物の送り主に慌てることしか出来ず、そこまで思い至らなかったが、とにかく慎重に、丁寧に荷物を開けた。
丸い箱だった。
あけると、そこにはシンプルな中折れ帽子が入っていて、それ以外の何かは入っていなかった。
彼はどうしていいかわからず、とりあえず今日着ていく服のテイストを変えた。
その帽子をかぶるために。
next/ トノtop