「それで。お前、あのプレゼント渡せたのか?」
彼は、机ではなくカバンの中に移動したプレゼント二つを思い出して、資料を熟読しはじめた。
「特技、速読」
「…渡せてねぇのな」
思い切りよく人の言葉を無視した彼に、鬼怒川は顔を手で覆う。
「……タイミングが悪かった」
「タイミング測ってたら渡せねぇよ」
キッチンでなにやらゴソゴソしている古城の舌打ちが、キッチンにつながったダイニングスペースまで聞こえてくる。
まるで彼の煮え切らぬ態度に舌打ちをしているようで、彼は視線を彷徨わせた。
「…今度こそ渡す」
「それっていつよ?」
「………卒業記念?」
「…プレゼントは増やさず花でも買え」
そうすれば流石に渡すだろう。という友人の配慮をよそに、彼はハイスペックな脳を働かせ、資料を机へ投げ出した。
「高雅院はなんの花が似合うんだ」
「深く考えるな。花屋に行って、いくらいくらで卒業を祝う花束を作ってくださいって頼め」
「なんか適当じゃねぇか」
「失敗するよりはマシだ」
せめて花束の雰囲気だけでも決めていけばいいという友人に、それもそうかと彼は頷く。
鬼怒川省吾という男は、彼と付き合いが長いだけあって、彼のことをよく知っている。鬼怒川のいうことにはほとんど間違いがない。その上、彼も鬼怒川がいうように、考えすぎて失敗するとなんとなく予感した。
花束はついでだ。渡さなければならないのは、行き場をなくした二つのプレゼントなのだから。
「……そう思えば、あそこの卒業式ってうちの卒業式と、かぶってないか…?」
ふと、卒業記念に渡すならば卒業式に渡さなければと思ったところで、彼はあることに思い当たった。
彼の通う学園と高雅院が通う学園の卒業式が同じ日取り、ということだ。
会長でなければ卒業式をサボっていた、というほど彼は学園の先輩方に世話になっていないわけではない。それなりに見送りたい先輩が、彼にもいる。
卒業式を抜け出すこともサボることもできない。
彼はいつならば高雅院に会えるかを考える。
卒業式の準備、卒業生の追い出し会。生徒会役員の選出…。
「いつ会えばいいんだ…?」
「卒業してからになるか?」
彼は思わず、携帯を取り出してカレンダーをみた。
何度見ても、カレンダーの休みと卒業生が卒業してからの日程、卒業するまでの日程がおかしい。
「卒業式終わってからすぐくらいに中間。そのあと、生徒会役員の引き継ぎ…ちょっと待て、中等部卒業式もあるじゃねぇか」
「高等部は関係ないのにな」
休みという休みが、無理をしたら、いけないことはない。という状態で潰されている。
「春休み…?」
高校生の春休みは少ない。
それなのに、さらに生徒会の用事が春休みを潰してくれている。
引き継ぎつつ、修行期間として入学式の準備もするから、前役員とてのんびりできないのだ。
「一番妥当なのは、合間の休みになるか」
友人の言葉に、スケジュールの空いていそうな日曜日に、彼は携帯でお出かけマークをいれた。
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