お出かけマークがはいった日曜日。
朝早くから学園を出て、花屋で小さな花束を買って、プレゼントのはいった紙袋に慎重に入れてその花束を隠した。
彼が高雅院にその日の予定を聞くと、その日の午後なら空いていると返事がきた。すかさずその午後をキープして、こうして、彼は高雅院をまっている。
二月の中頃ということもあって、ファーストフード店の中は暖かい。花が暖かさでヘタレないか心配になりながらも、彼は高雅院を待つ。
二月限定のチョコレート関連の商品を、あまり食べる気もないのに注文してしまった彼は、注文した食べ物よりも高雅院のことが気になってそわそわして落ち着かない。
そう思えば、あの理解できない言葉を言われた日…いや、どうしたいのか訪ねた日から、彼は高雅院と会っていない。
電話で謝ったし、定期的に送っているメールはいつもどおりであるし、バレンタインにはチョコレートまでもらってしまったし、送ってしまい、その時にプレゼントを送ればよかったと後悔もしたので、今の今までその事実を彼は忘れていた。
「ヤバイ…緊張してきた」
「何に?」
「……っ、高雅、院…」
高雅院雅という男はタイミングがいい。
ファーストフード店にいることを伝えた彼を探して、高雅院は声をかけようとしたのだが、彼が独り言を呟いたところで彼を発見したらしい。
「今日は……デート?」
おそらく、何の用であるとか、何をするのか、等を聞き出そうとして高雅院は口を開いたのだろう。だが、何を思ったのか、高雅院はその言葉を『デート』という言葉に変えた。
彼は、手に持ったまるごと板チョコデニッシュを思わず握りつぶした。
手はデニッシュの油と温めてトロトロを謳い文句にしたチョコレートで汚れたが、それに構っていられるほどデートという単語は破壊力の弱いものではない。
「デ…いや、デート…」
「いやか?」
首を傾げた高雅院は、彼の目になんとも狡く映った。
「いや、デート、だ…」
渡せなかったプレゼントであるとか、室温のせいで元気がなくなってしまうかもしれない花だとか、そんなものは今の高雅院という男を目の前にして、彼には些細なことのように思えた。
今なら、渡せるのではないか。
しかし、渡してしまってはこれで用事は終わりではないのか。
それならば少しくらい、デートらしいことをしてもいいのではないだろうか。
一瞬にして駆け巡った思考は、高雅院によってすくわれる。
「ちょっと本屋に行きたいんだが、いいか?」
彼は、迷わず頷いた。
「これ、食べてからな…」