体育祭後の仕返しをされないように、気をつけていると、あっという間に文化祭がやってきた。
鬼怒川の胃袋を掴んだまま、俺は何故かクラスの出し物である喫茶店で調理を担当させられていた。
発端は誰だったろうか。
一匹狼的ヤンキーは料理ができるもんなんだ!とかいう勝手な思い込みを発動させたクラスメイトによるものだったと思う。
クラスメイトは新聞部の人間で、俺の元同室者である友人の筧の友人であった。
筧は俺が調理好きであるということを誰にもバラしていない。
知っているのは、今のところ、筧、鬼怒川、生徒会長くらいのものなのだが、鬼怒川も生徒会長も誰かに俺のことをいうような機会もないだろう。
そのため、なんとなくコレはただの思い込みだと解った。
いや、指名してきた当初からおかしかったのだ。それが定説だと言ってきかず、誰もが困っていた。
そして、まさかのスイーツから軽食、いや、ランチまで既にメニューにされており、さらには、シェフの気まぐれお子様ランチなるものまで見つけてしまってどうしていいか解らなかった。
さらに、それ以上に困ったのが、そのメニューを俺にすべて考えさせるというように、メニュー表を差し出してきたことだ。
もちろん、断った。
ここまで隠してきたのだ。
それをなんで文化祭くらいでばらさなければならないのだ。
「えー…これくらいもできないの、カッコ悪い…」
「じゃあ、言っておくが、これくらいがお前にはできんのかよ」
「えーあー…いひ」
実際問題、メニューにあるものは非常におかしな量の料理とスイーツとドリンクだった。
こんなに学校の文化祭で種類は必要ない。
これではどこかの委員長が泣いて悔しがるしかないではないか。
それほど、スイーツメニューが充実してもいた。
「デザートは、お・れ。ってやつだよね!」
メニューを提案した新聞部の野郎はどうかしていると思う。
調理班にされてしまった、もしくはなったやつらにできるものに印をつけてもらい、どんどんメニュー表からスイーツや軽食を消した。
ここまでやると、さすがに俺が噂の不良であっても調理班は俺とそれなりに接触してくれるようになった。
「古城くんて、結構普通だよね」
人のことをなんだと思っていたんだ。至って普通だ。外見は不良らしいし、外でやっていることも、まぁ、素行不良としかいいようがないが。
「こうして心に芽生えていく友情、そして恋…!」
「いいかげん黙っとけば」
筧が止めてくれたが、本当に、新聞部のあの野郎はどうかしていると思う。
そんなこんなで、俺の担当はサンドイッチになった。
俺が何もしなくてもすでに美味しいだろうパンに、やっぱり俺が何もしなくとも既に美味しい食材を、バランスを考えて挟む。
そして、切る。
それだけの作業のはずだった。
ハズだったのだが、やはり新聞部のどうかしている野郎は黙らなかった。
シェフの気まぐれお子様ランチと、ざっくり削ったメニューの代わりに入れたのだろう気まぐれスイーツプレートをこっそりといれてきたのだ。
このシェフってのは誰が担当するんだと、ほかに聞きたいのは山々だったのだが、担当の中で一番楽をさせてもらっているのは俺で、俺がやるしかない流れがそこにはできていた。
結局、俺は文化祭の『気まぐれ』担当にもなってしまった。
俺は悩んだ。そして、思いついた。
気まぐれは両方なんとかなるだろう。
数量限定になりそうだが。
だから、商品以外は俺が作ったものしか食わせないことになっている同室者の風紀委員長鬼怒川省吾にきいた。
「なぁ、プリン、好きか?」
「てめぇが一番最初に食ったお取り寄せものなんだったか覚えてるか」
そう思えばプリンだったな。