文化祭当日。
クラスの出し物は面倒くさいことに学内イベントという校内を使ったイベントをするらしい。
委員長には迷惑かけませんから!当日以外、何もしなくて大丈夫ですから!
そう言われ、風紀のことばかりしていて、手伝いをすることなく当日まできてしまったことに俺は後悔した。
「眠れる…森の、帝王?」
「はい、委員長は帝王です!」
うっとりとした面持ちで俺を見つめてくるクラスメイトに言いたい。
眠れる森の美女でなかっただけマシというものだが、誰が帝王だ。
しかも内容は、眠った帝王を起こすということではなく、探すことになっている。
探すといっても、帝王だけを探すわけではない。
帝王に付き従う従者を数人見つけ出し、カードにスタンプを押してもらわなければならない。
ちなみに、俺の持たされたスタンプは『大変よく出来ました』のよくみかけるスタンプである。
そのスタンプが全部揃ったものが所謂、姫になり、景品がもらえる。
「…で、景品は」
「一つです」
「なんだ?」
「委員長のハグです」
「……安上がりだな」
「とんでもないです!委員長のハグですよ!目の色変えます!」
一部が!
そう言って嬉しそうにするクラスメイトにはもう何も言わない。
その代わり、俺はこのイベント案を通してしまった生徒会長に文句を言おうと思った。
いらぬ体力を使って逃げねばならないだろう現状と、少々華美な服装に、だ。
イベント参加者に襲われる前に…と、思ったのだが、俺の認識は甘かった。
俺にハグされたいという人間がすごいのか、クラスメイトが頼りないのか。校内をまわっている間に、付け狙われ、うまいこと引き離すこと、既に六回。
昼になってようやく行った、生徒会長のクラスで俺は一度、力尽きる。
「何イチャイチャしてるんだ?」
「イチャ…!してねぇっつか、してぇ!」
派手なスーツに派手なシャツ。
ノーネクタイでシルバーアクセ、髪をそれなりにセットした生徒会長、殿白河伊周はホストクラブと言う名の喫茶店をしていた。
そんな格好をしていても、ホストには見えず、高級感さえ漂う友人の席には、ホストに貢がされるどころかホストが道を外して本気で恋してしまうだろう…もとい、恋している男が座ってた。
小さな声でイチャイチャしたいといったトノを軽くあしらったあと、その男…高雅院雅を見た。
少し苦笑をもらしてこちらを見ている高雅院は、トノの言っていることをなんとなくわかっているのだろう。
いや、もしかしたら完璧に理解しているのかもしれない。
「チカ」
落ち着いた声でトノを呼ぶ。
それだけで、友人は嬉しそうに高雅院に振り向く。
「話があるなら、席をはずそうか?」
続いた言葉に気を落とした友人を可哀想だと思わない。
その友人の代わりに、高雅院の表情がふと笑んだことに気がつき、俺は生ぬるい笑顔を浮かべた。
「いや、大した話もないですから。……後で、文句聞けよ」
「あ?」
友人の、俺と想い人との態度が違いすぎていっそ清々しい。