鬼とプリン。


文化祭が近づいていた。
会長は他所の学校の文化祭に行き、風紀委員は文化祭の巡回当番を早々と決めてしまって、やることは転校生の破壊活動の阻止案だけとなっていた。
「文化祭でも転校生は破壊活動を行うかどうかについて議論したい」
俺の言葉に周囲がざわつく。
「お言葉だが、風紀委員長。転校生の破壊活動は我々の活動範囲外では?」
副委員長が、指にペンを挟んだまま右手を挙手した。
悲しいことに俺は首を横にふらなければならない。
「残念ながら、副委員長。あの野郎が暴れ、整備課の人間に迷惑をかける限り三年の影番が動く」
俺の言葉に、風紀委員室に重たいため息が重なった。
転校生は割と大人しくなった。というよりも、この学園の個性に隠れてしまったといっていい。
生徒の代表といっていい生徒会があの様相であるし、何といっても、転校生に構っている人間たちが激減したのも原因として挙げられる。
まず、生徒会の人間は生徒会長によって掌握されている。
補佐は最初から揺るぎもしなかったし、会計や書記二人などは確かに転校生を構ったが会長がうんざりとした様子を見せるとすぐにいつものペースに戻った。副会長だけはちょっと色々とちがったようなのだが、副会長はもともと熱しやすく冷めやすい性格だ。転校生に熱を上げたのは一瞬で、気がついたらいつものペースに戻っている。
いまや生徒会という組織の中に転校生と言う名の異次元がちょっとまじった状態が普通であるとされているくらいだ。
生徒会が構わなくなれば、生徒会親衛隊など大人しいものだ。近寄っただのなんだの言う前に、会長の親衛隊がこう発言したからでもあるだろう。
『ならば君たちも近寄ればいい。あの方々は君たちが親しくしようとして不機嫌になったり、排除したりするほど狭量な方々なのか。もし、それが迷惑だと思うのなら君たちのアプローチが問題なのではないか。転校生?あれは、自分でアプローチしたか?違うだろう?きっかけはいつでも生徒会の方々だ。見つけてもらえる、貰えない、幸運不運を問うくらいなら、自分たちで動けばいい』
できない人間もいる。しかし、影でどうにかするくらいなら、その行動力で何故どうにかしようと思わない。とは、会長親衛隊親衛隊長の言だ。
さすが、生徒会長に親衛隊を作りたいんですといったその時に会長を押し倒した傑物である。
生徒会役員はアイドルではない。
たとえファンがいようと、親衛隊ができようと、特権があろうと。
アイドルではないのだ。
それを証拠に、会計や書記に挑んでいった新鋭隊員たちはそれなりに仲良くやっている。
会計は軽くておしゃれが好きだし、目立って洒落たものを持てばすぐ声をかけてくれただろう。書記二人は二人とも散らかし魔で何かと抜けている。助ければ礼くらいいってくれるし、何度もやっていたら、顔も覚えてくれるだろう。
副会長だけはやはり例のごとく、色々当てはまらない人なのだが、あの人の親衛隊はもともと宗教と言われるほどのものなのだ。
宇宙人や異次元ごときで揺さぶられるほどのものじゃない。
副会長のすることこそ絶対なのだ。
その掟が守れないのなら、出ていく。
それが、副会長親衛隊のルールだ。
そんなわけで、転校生にヤジを飛ばす連中も最近みかけない。
人とは慣れるものだ。
どんなに転校生が物珍しかろうと、どんなに転校生が暴れようと。
本当に耐え難い事象以外は、慣れてしまうものなのだ。
今更、問題児が一人増えたくらいで、どうにかなってしまうほどこの学園の問題児は薄くない。
転校生が薄れてしまうくらい、この学園の問題児たちは濃い。
「影番は怖いが、委員長。この前、体育祭で一匹狼ともめてたじゃないか」
そっちも心配だ。と、副委員長がいった。
俺は、眉間にシワを寄せる。
「アレのことはどうだっていい」
親しみから古城蓮をアレと呼んだのだが、周りには、あまりにも腹立たしく存在していることも許せない、名前を呼ぶことすら嫌なのでアレと呼んだと思われたようだ。
そのあとにどうだっていいと続けたのもよくなかった。
「委員長、あまり眉間に皺をよせては…怖いので」
眉間に皺を寄せた理由も、一匹狼という呼称故だ。
あの男が一匹狼だと思うと、無性に笑えてくるのだ。
笑わないようにするのに必死になってなにが悪い。
だが、その努力も無駄に終わる。
「まったく犬猿の仲なんだから…」
狼なのにか?と内心つっこんだあと、一匹狼という呼称を思い出してしまい我慢しすぎてゆがんだ笑みがこぼれた。
後にそれが、嘲笑したということになっていたのには、もう、腹を抱えて部屋で笑わせてもらった。
俺以外の風紀委員たちが真剣に話しているものだから、余計に面白かったのだ。




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